約 2,183,277 件
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/393.html
No.00「帝国軍諜報部式特別訓練」◆wqJoVoH16Y 生きている間は輝いて。 思い悩んだりは決してしないで。 人生はほんの束の間だから。 いつだって時間はあなたから奪っていくよ。 ――――――――――――――――――――――――世界最古の歌より。 土を踏む音が断続的に響く。踏みしめられた砂粒同士が噛み合い、砕けて粉になる。 鉄の軋む音が不規則に鳴る。銃身の中の駆動部が小さく動作を刻む。 足の運びは直線を選ばず、常に左右への動きを織り交ぜる。 左の銃口を常に前方へ、半身気味の身体を射線で覆う。 銃口の指し示す本当の前方へ、稲妻の軌道を刻んで疾駆する。 それが、イスラが行っていることの全てだった。 夏を想起させるほどの青空から照りつく太陽は容赦なく、 銃をつがえる左手の小指の先から汗が滴となって大地に吸い込まれる。 熱を吸う黒仕立ての上着は既に脱ぎ置かれていて、その背中にも汗が珠のように浮かんでいた。 カエルが言うだけ言って去った後、一人残されたイスラは「したいこと」を考え続けた。 だがカエルが言ったように、イスラが思ったように、イスラが求めるものはそんな一朝一夕で思い浮かぶことではない。 考えれば考えるだけ矮小な自分が頭をよぎり、思考を閉ざしてしまう。 だから、と言うわけではないが、イスラの身体は自然と歩くことを始めた。 立ち止まっていても何かが得られるとも思えなかったからか、単に座りっぱなしで体の節が痛みを覚えたからか。 イスラは銃の馴らしがてらに、身体を動かそうと思ったのだ。 唯一の懸念は銃や剣はおろか、全ての所持品を牛耳ったアナスタシアであったが、 そんな葛藤は肉とパンに囲まれて狼を枕に寝ているアナスタシアを見てどうでもよくなった。 3時間とほざいた大言壮語はどうなったのか、と言いたくもなったが、 寝てもなおしっかりと握られていた工具を見て、イスラはその言葉を飲み込む。 好き好んで会話を出来る相手ではないと経験しているイスラは、 寝ているのならば好都合と、集まった装備のいくつかと僅かな飲料水を見繕いその場を後にした。 (僕の、したいこと……) そうして元の場所に戻り、イスラはひたすらに銃を握って身体を動かしていた。 無論、専門の銃兵としての教育を受けていないイスラだ。今更銃撃戦をマスターしようなどとは露とも思っていない。 大ざっぱに狙って、なんとか引き金を引いて、かろうじて撃つ。その程度しかできないだろう。 だから、これはあくまでも訓練ではなく運動。気分転換に過ぎない。 強いて言うならば、馴らし。銃を握り続け、己が手――『ARM』に馴染ませる。 スレイハイムの英雄の教えを、少しでも身体に染み入らせるように。 銃口を向けた先、その先にあるものに少しでも手を伸ばすために。 一歩でも前に進めば、きっといつかにたどり着けると信じて。 ――――貴方が、全てを失ってなお幾許かの想いを残すのであれば……“戦場を用意しよう”。 不意に、銃口の向く先が震える。 手を伸ばした先に見えるのは、影の如き黒外套。 己の行く先に立ち尽くすその影をみて、イスラは歯を軋らせた。 銃を下げ、続くステップを大きく踏む。前に倒れてしまいそうなほどの前傾姿勢から浮かび上がるのは、右手の剣。 自信の前方からみて己が半身にすっぽり隠れるようにしていた魔界の剣を現し、一気に踏み込む。 銃撃からの疾走でその影の懐に入り込む。後はその刃で、この手に立ちふさがるモノをこの手で。 ――――違うよ、君は僕のことがきらいだろうけど。 死神の如き不吉をたたえた棍が、魔界の剣を弾き飛ばす。 見透かすように、敵足り得ぬというかのように、影はイスラの右手から刃を落とす。 そして影が煌めき、影の中から無数のツルギの影が浮かび上がる。 その全てがイスラが本来持っていたはずの、適格者であったはずの紅の暴君の形を取って。 無慈悲に、平等に―――― ――――僕は君のことが嫌いじゃない、それだけだ。 顎を伝った汗が数滴、地面へ落ちる。 イスラの身体はおろか周囲含め何一つ異変など無く、変わらぬ太陽の熱光だけが降り注いでいた。 砂を削るような小さな音がして、イスラはそちらに目を向ける。 乾いた大地の上に、魔界の剣が突き刺さっていた。 じっと手をみる。確かめた右手には、びっしょりと汗が吹き出ていた。 「首を取り損ねたか?」 突然の来訪者にイスラは反射的に右手をかくし、来訪者をみた。 くすんだ銀の髪を風に靡かせたのは、元魔族の王、ピサロ。 「いきなり話しかけて、その上何を言い出すんだい。 こんな誰もいない所で、首もへちまもないだろ。ただの運動、肩慣らしさ」 首をすくめておどけ、イスラは剣を引き抜こうとする。 「想定は、ジョウイとやらか」 だが世間話のように放たれた言葉が、イスラの身体を縫い止めた。 「参考までに。どうしてそう思った?」 「歩法。左右に身体を振っていたのは、前方からの攻撃に的を絞らせぬためだ。 銃は牽制……いや、進路の確保だろう。“遠距離射撃を切り抜けて一撃を叩き込む”。 そんな汎用性のない攻撃を反復しているのだ。具体的な相手を想定していると考えたくもなるだろう」 余裕さえ感じ取れるほどに落ち着いた瞳に、イスラは言いようもない不快感を覚えた。 それはあの雨の中で無様に取り乱したピサロを見ていたが故か、 そこから這い上がったらしいピサロへの嫉妬か、 あるいは、こうして自分の前にのうのうと姿を晒すことへの憤りだったか。 だが、やはりなによりも、己の中の無意識を言葉にされてしまったことに不快を覚えた。 「そうかもね。ここから先、戦うとしてもジョウイかオディオのどちらかだけだ。 戦い方の分からないオディオじゃなくて、 戦い方の見えているジョウイに合わせた攻撃を、知らずに反復していたのかもしれないね」 とにかく会話を打ち切りたくて、イスラは形だけの同意を示す。 「どんな卑怯な手を使ってか抜剣覚醒はしたみたいだけど、 ジョウイの攻撃の主力はやっぱりあのダークブリンガーみたいな黒い刃の召喚術だ。 棒や剣による攻撃もしてたけど、姉さんみたいな一流にはほど遠い。 あいつの主戦場は遠距離戦だ。懐に飛び込めさえすれば、それで行ける」 あふれ出す言葉が上滑りしていた。口が勝手に動く。ピサロを、そして自分自身を煙に巻くように言葉を綴る。 「真紅の鼓動も使ってたし、召喚獣や亡霊兵もいる。ちまちま遠距離で差し合ってたら埒があかない。 近距離で、重い一撃を叩き込む。あいつ相手に必要なのはそれだけだよ」 そこまで喋って、ピサロが笑っていることに気づいた。 お世辞にも好意的ではない、嘲りすら混じった笑みだった。 「……何かいいたそうだね?」 「いや……なるほどな。それで、銃と足捌きであの奇怪な刃を抜けて、 一刀両断を狙う動きだった……の、割には最後が締まらないな」 不機嫌を露わにするイスラに、ピサロは構うことなく感想を言い放つ。 やっぱり、とイスラは苦虫を噛み潰した。どうやら運動を始めて相当早い段階で見ていたらしい。 そう、イスラは最後の斬撃を失敗した。先の1回だけではない。 何度も何度も、最後の一足跳びからの攻撃だけが、必ず仕損じるのだ。 「一足一動……ってね。どんな戦いでも、相手の動きに先んじてのそれ以上の動きって、できないもんなんだよ」 戦闘とは常に流動的であり、常に一所に留まらず変化していくものであるが、 それを極限まで突き詰めると『1回の移動と1回の行動』に分解される。 全く同条件で2人が相対し戦闘した場合、一人の人間が移動と行動を1回行えば、相手とて必ず動くし、その逆もしかり。 ならばたとえどれほどの乱戦であろうとも『移動と行動』その繰り返しに分解できる、という考え方である。 「でも、ジョウイを一撃で倒そうとするなら、あの刃を抜けてもう一撃を叩き込まなきゃいけない」 そういってイスラは沈黙した。ジョウイの黒き刃を抜けるために『行動』し、 その空いた道を『移動』して近づくまではイメージできる。 だが、そこからジョウイが動く前にもう一度『攻撃』できるイメージが見えないのだ。 全力で凌いで全力で進む。その後全力で攻撃するまでにどうしても一拍が生ずる。 その一拍を見据えて、ジョウイは容赦なく狙ってくるだろう。 イスラは、血を出すほどに歯を軋らせた。 姉のような武功者であっても、足を殺して二撃。茨の君のような暗殺者であっても、手を殺して二足。 話に聞くルカのような規格外ならば話も別だろうが、イスラにはその才はない。 最後の一撃。その差が、今のイスラとジョウイを隔てる絶対的な差のように見えてならなかったのだ。 「ククク……成程な」 くぐもったピサロの笑いがイスラの思考を寸断する。 そういえば、こいつは一体何のために来たのか。真逆カエルと同じように僕に何か説教でもするつもりだったのか。 「なあ、結局あんた――」 なにをしに来たんだ、と言おうとしたはずの言葉は、撃鉄の音に遮られる。 イスラが向き直った先には、バヨネットの無機質な砲口が闇を湛えていた。 「……何の真似だい?」 「興が乗った。つき合ってやろうか」 イスラに銃口を向けたまま、ピサロは余裕を崩さず答えた。 「何をしにきた、と言ったな。貴様と同じだよ。私の魔力が全快するには時間がかかりすぎる。 ならば、この玩具を馴らしておくに越したことはないのでな」 銃身に魔力の光が満たされる。それは弱いものであったが、紛れもない実のある魔力だった。 「ふざけるなよ。あんた何を考えて――」 熱線がイスラの横を通り過ぎる。初級魔法一発分の魔力であったが、集束した魔力は地面に黒い軌跡を描く。 「その無駄な煩悶を終わらせてやろうというのだ。手を抜いた私の攻撃を抜けられないようではあの小僧に届きもせんだろう」 「手加減って……当たったら無事じゃ済まないだろ。こんなことをやっている場合じゃ――」 「“ゼーバー、ゼーバー、ゼーバー”――――早填・魔導ミサイル」 イスラの言葉を掻き消すかのように、バヨネットに込められた無属性の魔力が発射される。 砲身に充密するよりも早く引鉄を引かれた魔弾はレーザーのような密度は無いものの、 その数の暴威を以て弾幕を成し、イスラ目掛けて着弾する。 「――こんなことをやっている場合ではない、と来たか。 まさか私を『仲間』か何かだとでも思っているのか。他ならぬお前が?」 巻き上げられた噴煙の向こうに、ピサロは呆れた調子で吐き捨てる。 そこには『仲間』を案ずるような気配は微塵もない。 「端的に言って失笑だぞ。そも私が出向いた時点で時間切れなのだ。 その上、この“私を目の前にして『こんなことをしている場合ではない』という”――それ自体が無能の証左と知れ」 告げられる言葉は明確な侮蔑。だが、独りごとではなく、明確な受信者を想定された音調だった。 「……どういう意味だ。なんでお前が僕に用がある」 砂煙が晴れた先にあったのは、紫がかった透明の結界。 結界の中のイスラの傍らに侍った、霊界サプレスの上級天使ロティエルのスペルバリアである。 「“私がお前に用があるのではない”。“お前が私に用が無いのか”と聞いている。 それとも分かった上で言っているのか。だとすれば無能ではなかったな――ただの糞だ」 散弾ではなく収束させたブリザービームの一閃が、魔弾で摩耗した聖盾を貫通する。 凍てつく波動を使わずに力技で破砕したあたりに、感情がにじんでいる。 「何故座っている。何もすることが無いというのか――――“この私が目の前にいるのに”?」 砕け散る障壁の中で、イスラはピサロの目と銃口を見つめた。 「ちらちらと、私を睨んでいたこと、気づかないとでも思ったのか。 半端な敵意などちらつかせるな。うっとおしい」 その眼だと、ピサロは侮蔑する。 言いたいことがあると口ほどに言っているにも関わらず、それを形にしない。 心の中でその感情を弄び、愛撫し続けている有様を。 「待ってどうする。運命がお前のために出向いてくれるとでも? 全てに綺麗な“かた”が付けられる奇跡的な瞬間が最後にやって来るとでも思っているのか?」 いつかを待って蹲る人間に対し、ピサロは再び魔砲を充填し始める。 ここではない、ここではない、俺が全力を出す場所はここじゃない。 いつか、いつかこの想いを解き放つに相応しいときがくるはずだから。 「“来んよ”。お膳立てなど無い。在るのは袋小路だけだ。その時お前はどうする? 追いつめられて、どうにもならなくなって、全てを失って、そこから泣いて喚いて切り札を抜くのか?」 そんな泣き言をのたまう誰かを打ち砕くように、ピサロは黒い雷の一撃を放った。 「あの哀れな男のように」 一閃は雷の速さでイスラを穿たんと迫る。 しかしその間際、寸毫の狭間でイスラは一撃を躱し、ピサロに迫りかかった。 「ヘクトルのコトかあああああああああァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!」 一瞬で揮発した感情を爆ぜさせながらその軽足を以てイスラはピサロへ接近する。 地中深くで死骸を熟成させてできた油を、地層の中で直に点火させたような爆発だ。 限界の速度で駆動するイスラにあるのは、自分の心臓の奥底を無遠慮に弄られたような嫌悪だった。 見せないように、お前のために我慢していたものを、どうしてお前が開きに来る――! 「ああ、やはりか。どこかで見た眼だと思った――そういえば、あの男もこうやって死んだのであったな」 イスラの怒りも柳というかのように、クレストグラフを2枚重ねて、大嵐を巻き起こす。 放たれた真空の刃がイスラを、否、イスラの四方全て纏めて切り刻む。 イスラは嵐を前に、回避を選ばざるを得ない。横に飛んで避けるが、衣服と皮膚に傷が走る。 怒り狂った獣の爪の届かぬ位置から、肉を少しずつ殺ぐように刻んでいく。既に一度行った作業を反復だった。 「あれは愚かだったよ。大望を抱き、それに届き得る才気の片鱗を持ちながら二の足を踏んで機を逸した。 守りたいと奪わせないと、失った後で泣き叫ぶ――――実に、良い道化だった」 「お前が、ヘクトルを語るなアアァァァァ!!!!」 近づけないならと、イスラは銃を構えその手<ARM>を伸ばす。 その喧しい口を閉じろと、フォースを弾丸に変えてピサロの口を狙う。 「ハッ、貶されて癇癪か。“わかるぞ”。自分のたいせつなものを馬鹿にされるのは悔しいものだ」 だが、ピサロのもう一つ“口”が返事とばかりに、砲撃でイスラの想いを呑みこんでしまう、 「お前に、お前に僕の何が分かる!」 「お前が取るに足らない人間ということくらい、分かるさ。 “そんなお前をあの男は随分と買っていたようだ”が、愚か者の隻眼には石塊も宝石に見えるらしい」 吐き捨てられた言葉が、イスラの中で津波のような波紋を立たせる。 イスラからヘクトルを奪いながら、まだ飽き足らずにヘクトルを貶めている。 ごちゃ混ぜになる感情の奔流が、強引に銃身へと圧縮されていく。 「うるさい……うるさいよお前……!」 (お前が語るな。お前が歌うな。あの人の終わりを穢すな) 別に近づく必要などない。 ピサロのやかましい銃“口”を塞ぐには、より大きな“音”で掻き消せばいい。 この言葉にならぬ原初の感情を、一撃にたたき込む。 この矜持を、あの終わりを得た自分の感情を込めて。 「あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああ!」 「遠吠えなぞ煩いだけだ。仮にもヒトなら言葉を使え」 だが獣の鳴き声など伝わらないとばかりに、 絶対防御<インビシブル>がブーストショットを無効化する。 不完全な勇気の紋章と石像から完成された愛の奇蹟の差故か、あるいは“もっと根源的な理由”からか、 イスラの感情はピサロに届かない。 「お前のような獣には心得があってな。自分の柔らかい所を触られると直ぐに熱くなる。 そして、簡単に意識がそこに集まって――――他に何も見えなくなる」 何のことだ、と疑問を抱くより早くイスラの背後でイオナズンの爆発が生じ、イスラは前方に大きく吹き飛ばされる。 魔導ではない、純粋な『魔法』。 ピサロの銃口に気をとられていたイスラには、後方からも攻撃が来る可能性を抱く余地が無かった。 「受動的なのだよ。起こること、触れる全てにその時々の想いを重ねて動いてきたのだろう。 だから状況に刺激されて反応が遅れ、掌で踊らされるのだ。どこぞの間抜けのようにな」 爆発と同時に取り落としたドーリーショットを拾いに立ち上がるより先に、ピサロの方向がイスラに向けられる。 イスラは俯せのままピサロを睨みあげる。 今のピサロには、獣狩り程度の感覚しかないのが見て取れた。 受動的。その言葉に、イスラの中で苦みが生ずる。 確かにここまでの自身の行動において、主体的に動けた事例は数少ない。 あの雨の中の戦い、ゴゴの暴走、ヘクトルの死。 起きた事態に対して、もがいてきた。胸に抱く想いに真剣に足掻いてきた。一切の疑いなくそう言い切れる。 だが、その事態の発生に関われなかったイスラは常に受け身の立場を強いられてきた。 荒れ狂う激流の中で生き足掻くこの身も、川面から見れば波打つ流れに木の葉が翻弄されているようにも見えただろう。 忘れられた島の戦いに於いて、帝国軍・無色の派閥・島の住人の三者を手玉に取ってきたイスラの現状としてはあまりに滑稽だ。 「“それがどうしたっていうんだよ”……!!」 だからどうした、とイスラは拒絶の意志を湛えてピサロを睨みかえす。 後から見返して間抜け、短慮というだけなら子供でもできる。 部外者の――否、イスラではないピサロにとってはそれはただの無様の記録でしかないかもしれないけど。 それは、イスラがありのままの自分で、ありのままの世界を見た上で歩んできた記憶だった。 たいせつな、たいせつな終わりなのだ。 「不満そうだな。言ってみろ。仇も満足に討てないのなら、せめて言葉で一矢報いればどうだ」 「……お前なんかに、僕の想いが分かるかよ」 手を払いのけるようにイスラは吐き捨てる。 やっと認められた、自分の中で受け入れられたこの想いを、ピサロになど語りたくなかった。 たった1つ残ったあの終わりだけは、誰にも穢させたくなかった。 「怖いのか。その抱いた想いを外に出すのが、怖くてたまらないのか」 「―――――――――っ!?」 だが、ピサロはイスラが庇ったその想いではなく“庇い続けるイスラを撃ち抜いた”。 イスラの目が、銃口の先、好悪綯交ぜとなったピサロの瞳を映す。 「その獣は、愚かだったよ。身体の内から何かが湧き上がっている激情。初めはその名前すら知らずに翻弄されていた」 ピサロの口から、侮蔑の呪いが吐き捨てられる。 だが、それはイスラを罵りつつも、別の何かを嘲るようだった。 「その名前を知った後は、それに酔いしれた。 自分一人が、その奇麗なものの名前を知っていればいいと、その想いで身を鎧った」 ほんの少し前に見てきたようなかのような臨場感で、獣の痴態を歌う。 「後は、ただの無様だ。それに触れられれば噛みつき、狂奔し、盲いたまま何処とも知らず走り回り、 流されていることと進むことの区別もつかず、自分の中に全てがあると吠えていた――滑稽にもほどがあるだろう」 “分かっているのだ”。“間違っていることも分かっててやっているのだ”。 “だから己は正しいのだ”。“これが唯一無二の正解なのだから他の意見など必要ない”。 故に獣は触れる全てに害をなす。全てに噛みつくが故に、簡単に踊らされる。 「だから口を閉じろと喚いていたよ――――笑わせる、違うと言われることを恐れていただけの癖に」 ピサロはせせら笑う。誰彼かまわず噛みついた獣は、ただ、臆病だっただけなのだと。 誰かに否定されるのが怖かったから、誰の言葉も求めなかった。 不朽不滅と誇っていたものは、ただ、誰にも触れさせてこなかっただけなのだと。 過ぎ去った獣に向けるピサロの苦笑に、イスラは鏡を見るような気分を覚えた。 死にたいと願い、自分を偽って生きてきた。 そしてあの巨きな背中に憧れ、誰かのために生きたいと願えた自分の想いを素直に受け入れることができた。 二度目の生でようやく認められたこの想いを大切にしたいと、そう想えたのだ。 だがそれは、それだけでは、ピサロが嘲笑う獣と何が違うのだろうか。 誰がためと言いながらそれを誰にも言わないのなら、自己満足と何が違うのか。 違う、と思う。そんなケダモノなんかと一緒にするな、と叫ぶことはできる。 じゃあ、この感情を口に出せない僕は、なんなのか。 これほどまでにココロを満たすモノを、何故形にできないのか。 「お前に僕の気持ちは分からない、と言ったな。 分かるわけがないだろう。内心で反芻するだけの音など、聞こえるか。 子供でもあるまいに。他人が好き好んで貴様の妄想に寄り添ってくれると思うなよ」 ――――貴方のほうがよっぽど私より子供ですっ!! 違いますか!? どうなんですか!? はいか、いいえかちゃんと答えて!? 唾液に濡れた粘膜の先に波が伝わらない。言い返すべきなのに、言葉が出ない。 素直になれたはずなのに、感情を認められたはずなのに、外に出せない。 それは、知っているからだ。 この世はどうしようもなく損得勘定で、 馬鹿正直に心を開けばそれを逆手にとられて痛い目を見て、嘲笑されるだけで、 形にすれば砕けてしまうかもしれなくて、触れられれば壊されるかもしれなくて。 「あの男は愚かではあった。だが少なくとも最後まで願いを、守りたいモノの名を伝えていたぞ。 だから言えるのだ。こんな臆病者を死ぬまで守ろうとしたお前は、心底愚かであったとッ!」 ピサロの撃鉄に力が籠る。 測るに値しない器ならば砕けても構わないというように。 だからとりあえず無関心を決めこめば、傷つくこともないし、他人にバカにもされないということを。 それはどう足掻いたところで不変の真実で、それが一番簡単な平穏なんだって知っている。 でも。 「ストレイボウは測った。ならば貴様はどうだイスラ。貴様は獣か、人か、勇者か、魔王か?」 知らないよ、僕が誰かなんて。でも、でも。 ――――なんで、黙ったままやられ放題でいるんですかっ!? ここまで言われて、黙っていられるほど、デキちゃいないッ!! 空いた左手を背後に回し、もう一つの銃<ARM>を取り出す。 44マグナム。六連回転式弾倉に込められた火薬よりも鋭く熱い意志が、引鉄と共に放たれ、 横合いから砲口の軌道を僅かに逸らす。 その僅かな間隙を縫って、イスラはドーリーショットを回収してピサロとの距離をとった。 「隠し腕。無為無策という訳ではなかったか」 ピサロは状況を淡々と見定め、生き足掻いた目の前の存在を眇める。 「そういや、アリーゼにも言われてたよ。人にモノを聞かれた時は、とりあえず“はい”か“いいえ”だっけか」 肩で息をしながら、イスラは下を向いたまませせら笑った。 思い出す。今のように矢継早にまくしたてられて、言葉を紡げなくなってしまったことを。 僕の逃げ場を全部潰したうえで、ボロクソに叩きのめしてくれた少女を。 ――――貴方がどんな理由でそんなふうな生き方を選んだかなんて私にはわかりません 話してくれないことをわかってあげられるはずないもの… その少女は最初、何も言えなかった。 その眼に明らかに何か言いたげな淀みを湛えながら、それを出せなかった。 変えたい何かがあるのに、それに触れることで自分が傷つくことを恐れていた。 僕のように、あの人のように。 だけど、彼女は歩き出した。世界を変えたければ、自分が変わることを恐れてはならないと知っていたから。 「ああ、そうだよ。僕は、僕は――」 唇が震える。見据えてくるピサロの眼に胸が締め付けられる。 きっと、もしかしたら、あの時僕を罵倒した彼女も、こうだったのかもしれない。 他人を傷つけるのならば、自分が傷つくことを恐れないわけがない。 ああ、だから、僕は知っている。 本音<イノリ>を言葉<カタチ>にするということは、とてつもない勇気<チカラ>が必要だということを。 「僕はクズだよ。言いたいことはうまく言えないし、口に出せば大体皮肉になるし。 泣くのは失った後で、素直になるのは、いつだって手遅れになってからだ」 自分で言って情けなくなってくる。 しかも、言葉にしてしまえばもう取り返しは効かない。 吸った息で、自分の中の何かが酸化していく。外側に触れた分、変質してしまう。 「でも、あの人たちはそんな僕に触れようとしてくれた。 僕を肯定してはくれなかったけど、分かろうとし続けてくれた」 その不快をねじ伏せ、もう一度ドーリーショットを強く握る。 僕のしみったれたプライドなんてそれこそゴミだろう。 前を見ろ。今目の前にいる男は、一体何を踏み続けている? 「ブラッドを……ヘクトルを……こんな僕に「勇気」を教えてくれたあの人たちを……」 胸に抱く勇気の紋章が放つ燐光が、腕を伝い鉄を満たし、銃をARMへと変えていく。 口を閉じてほしいのではない。ピサロがヘクトルを愚かだと想う、それ自体が辛いのだ。 だから放つ。自分が傷つくことも厭わず、撃鉄に力を込める。 だって、僕は知っているんだ。 ユーリルが、ストレイボウが、ブラッドが、ヘクトルが――――アリーゼが教えてくれた。 「馬鹿に、するなァァァァァァッッ!!」 勇気<チカラ>を込めて言葉<カタチ>に変えた本音<イノリ>は、 世界さえ変えられるんだってことを。 「……アリーゼ……“アリーゼ=マルティーニ”か?」 放たれた弾丸のけた違いの威力を、ピサロは見誤らない。 反応が遅れた今、初見での撃ち落としは博打に過ぎると判断したピサロは、 インビシブルを発動し、やり過ごそうとする。 「――――ッ!? 徹甲式とはッ!!」 だが、ピサロの驚愕とともにインビシブルに亀裂が走る。 本来、インビシブルはラフティーナの加護を得た者に与えられる絶対防御だ。 揺るがぬ愛情、その意志の体現たる鎧は1000000000000℃の炎さえも凌ぐ不朽不滅であるはずなのだ。 「それと拮抗する。なるほど、あの女とは異なる意志の具現かッ!」 傷つくことへの恐怖を乗り越えてでも、その想いを形にする意志。 その勇気が籠もった弾丸は即ちジャスティーンの威吹。 同じ貴種守護獣の加護ならば、欲望を携えた聖剣同様『絶対』は破却される。 「がっ、深度が足りんなッ!!」 しかし、絶対性を無効化したとてその堅牢性は折り紙付き。 決して失われぬピサロの愛を前に、イスラの勇気はその弾速を反らされ、悠々と回避する隙を与えてしまう。 「構わないよ。お前に伝わるまで、何千何万発でもぶち込んでやるからさ」 だがイスラは一撃が反らされたことに悔しさも浮かべず、次弾を装填する。 ヘクトルも、ブラッドも、たった一度で全てを伝えようとしたわけではない。 何回も何回も、言葉を重ねて、それで少しでも伝わるかどうかなのだ。 だから、イスラも何度でも意志を放つ。不変の想いを変えるために。 「……くくく、これも星の巡りというやつか。メイメイ……あの女、一体どこまで観ているのやら……」 そんなイスラを見て、ピサロは面白がるように笑った。 今こうして2人が銃を向けあうこの瞬間に、偶然以上の何かを見つけたかのように。 「メイメイ? おい、お前――――」 「ならば、そうだな。奴の言葉でいうならば“追加のBETを積んでやる”」 独白に無視できない単語を見つけたイスラの詰問を遮るように、 ピサロが銃剣を下ろしながら、懐かしむように言った。 「アリーゼとか言ったな。その娘、この島でどうなったか知っているか?」 イスラの銃口が、微かに震えたことを見て取ったピサロは、 数瞬だけ呼気を止め、そして肺に空気を貯めてから言った。 「獣に噛まれて死んだ。『先生』とやらを庇って、盲いた獣の前に飛び出てきた故に。 まあ、端的に言って――無為だったな」 静寂が荒野を浸す。 やがて、銃の駆動音がそれを打ち破った。イスラの銃口が完全に震えを止めて、ピサロを狙う。 だが、その意志は決して先走ることなく、銃の中に押し固められていた。 「言いたいことの他に、聞きたいことが出来た」 目を見開くイスラを見て、ピサロは口元を歪めて応ずる。 「好きにするがいい。もっとも、生半な雑音など遠間から囀るだけでは聞こえんぞ」 両者の銃撃が相殺され、爆風があたりを包む。 先に土煙の中から飛び出たイスラが銃撃を放ちつつピサロへ接近しようとする。 だが、ピサロもまた機先を制した射撃と魔法でイスラを寄せ付けない。 互いが互いをしかと見据え、間合いを支配しあう。 銃弾に、言葉に乗せて、イスラは想いを放つ。 ヘクトルがどれだけに偉大であったか。自分がどれほど彼らに救われたのか。 憧れというフィルターのかかったその想いは、決して真実ではないだろう。 合間合間にブラッドのことも混じるあたり、理路整然とはほど遠い。 だがそれでも恐れずに引き金を引き続ける。 どれほどに拙くとも、自分の言葉でピサロを狙い続ける。 ピサロもまた時に嘲り、時に否定しながら、イスラの弾丸を捌いていく。 インビシブルは使っていない。 それは、絶対の楯が絶対でなくなったからではなく、楯越しでは弾がよく見えないからだった。 拙いというのならばピサロもまた拙かった。 膨大な魔力で他者を圧倒するのがピサロの主戦術であるならば、 小細工を弄し、受けとめ、捌き続けるなど明らかに王道より逸れている。 話す側も拙ければ、聞く側も拙い。 子供の放し合いであり、しかし、確かに話し合いだった。 決して獣には成し得ぬ文化だった。 「ふん、お前がどれほどあの男に傾倒していたかはよく分かった。 だがお前はあの男を、あの男が描いた理想郷を終わらせたのだろう。 己が終の住処と定めた場所を捨てて、なぜお前はここにいるッ!!」 イスラの銃撃を頬に掠めながら、ピサロが銃剣を構える。 腰を低く落とし、足幅を広く取って重心を下げる。 「答えを教えてやろう。目の前に仇がいる。主君潰えようとも仇を為さずして死ぬわけにいかん。 お前からヘクトルの生を奪った私を、ヘクトルの死を奪ったジョウイを、 誅さねばならぬと、無意識が願ったのだッ!!」 常は片手で扱う銃剣を、両の手でしっかりと固定する。 強大な一撃を放つことは明白だった。 「装填、マヒャド×マヒャド×イオナズン。 だが、生憎と私は死ぬ気がない。そしてお前の刃では私に届かない。 つまり、お前はどう足掻こうが目的を達せられない」 銃剣の切っ先に氷の槍が生成されていく。 透き通るような煌めきは、障害を全て撃ち貫く決意に見えた。 「ならば、生を奪った者として、せめて引導を渡そう。三重装填――――スノウホワイト・verMBッ!!」 ピサロの意志が射出される。 絶対零度の意志は、決して融けぬ不変の槍。 だがその氷の中に潜むは、爆発するほどの激情。 圧縮された氷槍が内部爆発を起こし、大量の破片に分かれる。 そして、さらにその破片が爆発し、さらに膨大な破片に。 爆発し続ける氷はいつしかその数を無量の刃へと変えていた。 「終わりだ――目的もなく生き恥を晒し続けるぐらいならば、疾く飼い主の下に馳せ参じるがいい!」 迫り来る刃の群を前にして、イスラは銃身を額に添える。 なぜ自分は今生きているのか。それはピサロから問われるまでもなく問い続けてきた問いだった。 未だにその答えは出ていない。ならば敵討ちのためだというピサロの答えを否定できないのではないか。 (違う。そうじゃない。僕は――生きたいと思いたいんだ) 去来するのはカエルの背中。逃げ続けてここに残った男の背中。 生きる理由は、生きて為したいことは見つからないけど、 それでも理屈をこね回しているのは、生きたいと思いたいからだ。 (ならばどうして、死にたがりの僕がそう思う。生き恥を晒し続けて来た僕が――――) 違う。そうではない。そうではないのだ。 生きる理由はないけど、したいこともないけど、誰の役にも立ててないけど、 “今生きていることを恥だと思いたくない”。 目を見開いたイスラが、銃口を正面に向ける。 目の前にはもはや数え切れぬほどの氷刃の弾幕。 その全てがイスラを狙っている訳ではないが、それ故に回避は絶対に不可能。逃げ場はない。 だが、イスラは一歩も引かず、その氷を見据えた。 逃げてもいいということは知っている。それが無駄にならないということも知っている。 だが、無駄にならないからといって最初から逃げてどうする。 まして、今狙われているもの、それだけは絶対に譲れないのだ。 「フォース・ロックオン+ブランチザップ」 前を、世界を見据える。あの時のように、勇気を抱いたあの時のように。 決して揺るがぬ鋼の英雄のチカラがARMを満たす。 逃げも防御も無理。だったら、あの人ならきっとこう言うだろう。 「ロックオン・マルチッ!!」 笑止――――全弾、撃ち祓うのみッ!! イスラの一撃が放たれる。ブランチザップによって拡張された散撃が、 ロックオンプラスの冷徹な精度の狙撃と化し、 『拡散する精密射撃』という矛盾した一撃となる。 威力だけはただの一撃と変わらぬ故に安いが、拡散した氷刃をたたき落とすには十分過ぎる。 「ハッ! まだ足掻くか。やはりあるか、生き恥を晒し続けてでも為したいことが!!」 弾幕の全てをたたき落とされる光景を見て、ピサロは苦笑した。 口ではああいえど、根には執着があったということだ。 ならば、自分もまた―― 「だから、違うんだよ。お前と一緒にするな。僕はまだ何も見つけちゃいない!」 破片の破片をかき分けて、黒い影が疾駆する。 魔界の剣を携え、イスラがピサロへと切り込む。 「ならばなんだその生き汚さは。目的もなく希望もなく、何を抱いてこの瞬間を疾駆するッ!!」 ピサロは動ずることなく、銃剣を剣として構える。 こちらの攻撃が一手速い。少なくとも先んじて効果のある一撃を放つのは不可能だ。 「――――なでてくれた。その感触がまだ残ってる」 だが、イスラは止まることなく剣を走らせる。 その生に理由はなく、希望はなく、終着点も終わらせてしまったけど。 「やれば出来るって、最後に言ってくれたんだ。 だから僕は、この生を恥だとは思わない!! あの人が肯定してくれた僕の生を、否定しない!!」 それが、全てを終わらせて抜け殻になった僕に残った最後の欠片。 自分自身さえもが見限ったこの命を、最後の最後に認めてくれた。 だから、生きたいと思いたいのだ。 どれほどそう思えなくとも、他に何も残っていなくても、 理想郷を終わらせても、それでもこうして、足掻いている。 「だから、邪魔するなら退いて貰う。アンタも、ジョウイも、オディオだってッ!!」 魔界の剣を握った右手が、光に輝く。 一回腕を振って、全力で走ったらもう動けない? ふざけるな。そんなこといったら、あの掌ではたかれる。 「だって、僕の腕<ARM>は……まだ、二振りもついているッ!!」 フォースLv3・ダブルアーム。 腕から抜けていく力に、強引にフォースを注いで体勢を維持する。 銃だからではない。剣だからではない。 この腕に握るものこそが『ARM』。手を伸ばすということ。 目を見開くピサロの攻撃が止まる。だが、イスラは止まらない。 勇猛果敢さえも越えて、あの人の、獅子のような力強さを添えて奮い迅る。 「ブランチザップ・邪剣――――ッ!!」 込められるのはイスラの持つ剣撃系最高火力。 その速度・威力に陰りはなく、放たれればピサロとてその命脈に届く。 もはや通常の方法では避けようもない体勢である以上、インビシブルだけが唯一の対処法だ。 展開が速いか、イスラの一撃が速いか、それが最後の争点となる。 「フッ」 だが、ピサロはインビシブルを展開しなかった。 その目には怯懦はなく、むしろ得心すら浮かぶ。 あるいは、こうあるべきなのだという達観のように、目を閉じる。 こいつならば、あるいはというように―― だが、一向に斬撃の痛みが来ないことに気づいたピサロがゆっくりと目を開ける。 その胸に触れていたのは刃ではなく、イスラの拳だった。 何故、というより先に、遠く離れた場所でずぼりと地面に魔界の剣が突き刺さる。 その柄には、ぐっしょりと汗がついていた。 「――あの」 「ふんっ」 イスラが何かを言うよりも早く、ピサロは蹴りを放ちイスラを吹き飛ばす。 それで興味を失ったか、ピサロはイスラに背を向け、立ち去ろうとする。 「ま、待て! 待ちなよ」 「なんだ、もう一度などと言ったら今度こそ消し炭にするぞ」 「そうじゃないよ。その」 言い淀むイスラに、ピサロは嘆息して今度こそ去ろうとする。 だが、それより先に意を決したイスラが声をかけた。 聞かなければならないことは山ほどあるが、今は、これだけ。 「あんたの言ってたその獣って、最後はどうなったんだい」 ピサロの足が止まる。荒野に風が吹き、くすんだ銀髪を靡かせる。 「さあな。獣より性質の悪い畜生に追い立てられて逃げ失せた。後は知らん」 空を見上げながら、ピサロは独り言のように呟いた。 「多分、どこかで足掻いているのだろう。今更、本当に今更に、ヒトになろうと」 「……無理じゃないの?」 「だろうな。そこまでの道を進んでおきながら、逆走するようなものだ。 戻るのにどれだけかかるか、そこから進むのにどれほどかかるか。分かったものではない」 呆れるように、ピサロは失せた獣を想った。 この空の下で、灼熱の陽光に焼かれながら這いずり回る獣を想像する。 「それでも足掻くよりないのだろうさ。所詮獣、“いつか”など待ちきれぬ。 どれほどに遠かろうと果てが無かろうと、走らねば辿り着かないのだから」 そういって、ピサロは熱した大地に再び一歩を踏みしめた。 遥かな一歩のように。 「おい」 再度の呼びかけとともに、投擲物の風切り音が鳴る。 ピサロは振り返ることなく肩を過ぎるそれを掴む。水の入った使い捨ての水筒だった。 ピサロが僅かに振り返る。イスラは背中を向けて、水筒の水を汗に塗れた自分の頭に注いでいた。 何も言わず、ピサロはその場を去る。 水筒の蓋を開けて、喉を湿らせる。 「温い」 ぶつくさと言いながらも、その水を飲み干すまで水筒を捨てることは無かった。 獣だろうと、ヒトだろうと、喉は乾く。 【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 日中】 【ピサロ@ドラゴンクエストIV】 [状態]:クラス『ピュアピサロ』 ダメージ:中 ニノへの感謝 ロザリーへの純愛 精神疲労:大 [スキル]:魔封剣、デュアルショット、アルテマバスター*いずれも要バヨネット装備 ミーディアム:ラフティーナ [装備]:バヨネット@RPGロワオリジナル [道具]:ミーディアム『愛の奇蹟』@WA2 クレストグラフ@WA2※ヴォルテック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック [思考] 基本:すべての命が、自らの意志で手を取り合える世になるよう力を尽くす 1:『その時』にむけて、したいことをしよう [参戦時期]:5章最終決戦直後 ※バヨネットはパラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます 【イスラ=レヴィノス@サモンナイト3】 [状態]:ダメージ:中、疲労:大 [スキル]:心眼 勇猛果敢 フォース・プリズナー№666(Lv1~4) [装備]:魔界の剣@DQ4 ドーリーショット@アーク2 44マグナム@LAL*残弾無し [道具]:召喚石『天使ロティエル』@SN3 召喚石『勇気の紋章』@RPGロワオリジナル [思考] 基本:今はまだ、したいことはないけれど。“いつか”を望み、したいことを探し続けよう 1:『その時』にむけて、したいことをしよう [参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている) <リザーブ支給品(全てC-7とD-7の境界(C-7側)に集められている)> 【ドラゴンクエスト4】 天空の剣(二段開放)@武器:剣 ※物理攻撃時クリティカル率50%アップ 毒蛾のナイフ@武器:ナイフ デーモンスピア@武器:槍 天罰の杖@武器:杖 【アークザラッドⅡ】 デスイリュージョン@武器:カード バイオレットレーサー@アクセサリ 【WILD ARMS 2nd IGNITION】 感応石×4@貴重品 クレストグラフ@アクセサリ ※クイック、ハイパーウェポン データタブレット×2@貴重品 【ファイアーエムブレム 烈火の剣】 フォルブレイズ@武器:魔導書 【クロノトリガー】 “勇者”と“英雄”バッジ@アクセサリ:クリティカル率50%アップ・消費MP半減 パワーマフラー@アクセサリ 激怒の腕輪@アクセサリ ゲートホルダー@貴重品 【LIVE A LIVE】 ブライオン@武器:剣 【ファイナルファンタジーⅥ】 ミラクルシューズ@アクセサリ いかりのリング@アクセサリ 【幻想水滸伝Ⅱ】 点名牙双@武器:トンファー 【その他支給品・現地調達品】 海水浴セット@貴重品 拡声器@貴重品 日記のようなもの@貴重品 マリアベルの手記@貴重品 双眼鏡@貴重品 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの デイバック(基本支給品)×18*食品が現在アナスタシアが消費中 時系列順で読む BACK△154 聖女のグルメNext▼156 罪なる其の手に口づけを 投下順で読む BACK△154 聖女のグルメNext▼156 罪なる其の手に口づけを 152 天空の下で -変わりゆくもの- ピサロ 159-1 みんないっしょに大魔王決戦-魔王への序曲- 153 Talk with Knight イスラ 158 イスラが泉にいた頃… ▲
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/281.html
きみがぼくを――(ne pas céder ―――――――) ◆MobiusZmZg 「それでもみんな……みんな、僕をッ!」 横合いからアキラの体当たりを受けてなお、ユーリルは剣を止めない。 完全な不意討ちによって重心が崩れたものの、天使の羽が立体的に彼の姿勢をただす。 返しの逆袈裟を転がって避けた超能力者から相手の注意を逸らすべく、イスラは剣を返した。 「……そうかい」 みんな。 誰を指すのか判然としない単語を聞くに至って、苛立ちが強くなる。 ユーリルが《勇者》をやっていて、これまでいくたび苦労や我慢をしてきたのか――。 それは、イスラの知るところではない。彼との会話が成立しない現状では、知ることも出来ない。 けれどもユーリルは、水を向けた自分を見ていない。彼の行ってきた幾多の我慢しか、見えていない。 だからこそ、話をしようとしていて腹が立つ。嫌気がさす。 あまりにもものがみえず、まるでイスラ・レヴィノスを思わせる、この言動が気に入らない。 最も彼に似ているイスラ本人でさえ、付き合うことは困難であると感ぜられるほどに。 「だけど、《勇者》を捨ててこんなことになってるキミは、結局……。 《勇者》の称号から力を借りなきゃ、満足に、人の力を借りずに立てもしないんじゃないか」 なにからなにまで。僕と同じに。 続きかけた言葉を飲み込むことで、イスラは顔に浮かびかける苦渋の色をも押し込めた。 誰かに力をめぐんでもらわねば、生きていけない。 命を落とす直前に耳にした、病魔の呪いを与えた男の声がよみがえる。 その言を理不尽だと思い、相手に憤りを覚えこそすれ、その言葉自体を否定するつもりはない。 魔剣に選ばれたアティにしか、イスラの命は。イスラを生かす、魔剣は砕けなかったのだから。 イスラが死ぬためには、死んで《生きる》ためには、彼女の力が必要だったのだから。 だから、どうしようもない悪役を演ずることで、彼女たちに憎まれようとした。 そうしてアティに、殺してもらおうとしていた。 (そうだね。たしかにイライラするよ。このまま見てると、胸が悪くなりそうだ) まったくもって――。 今でも悔しい。腹が立って仕方がないのだが、アリーゼのまくしたてたとおりだ。 自分は、自分にしか分からない、自分が勝手に納得した経緯とやり方で……甘えていた。 甘く、柔和とみえるアティが。弟に対して引け目を感じていた、アズリアが。 彼女たちがくみしやすいと思えたことをいいことに、むずがっていたのだ。 苦い事実が、自身の未熟が、「鏡」を前にしているとよく分かる。 「望んで《勇者》になることを受け入れた。そう装っていたのならなおさらさ。 キミと《勇者》が、それほど近かったなら。そこまで巧く《勇者》のフリをしてたなら」 「僕を、そんなふうに呼ぶなぁああ!!」 瞬間、ほぼ無詠唱で繰り出されたのは雷だ。 反射的に覚えた怒りや不満をそのまま表出させたかのような魔法は、確かな呼吸で相殺される。 血を思わせて深く赤黒い輝きは、ジョウイの片手に刻まれている紋章が宿す力だ。 機を見計らったアキラの能力で方向感覚を狂わされた少年は、降り暮らす雨のなか声をかぎりに叫ぶ。 「もう、ッ、だまってくれ! だまって、アナスタシアを殺させろ――ッ!」 「分かってもらいたい。それがキミの本心なんだろ?」 分かってもらいたい。 真意を汲み取られたうえで、大事にされたい。 それもきっと、ユーリルの本心であるとみて相違ないはずだ。 《勇者》に生かされ、まずもって同じ概念に殺されたというのなら。 (自分のことを忘れられるより、心のなかを悟られなくても憎まれたほうが、ずいぶんと楽じゃないか) こいつはどこまで自分をなぞっているのだろうか。 こいつは、いったいどこまで、在りし日の……。 いまも根づくイスラ・レヴィノスの暗部を、恥ずかしげもなくさらしてくれるのか。 心を砕いたぶんだけ、思いが返ってくる。敵意には、敵意が返ってくる。 大別してふたつの未来があるとすれば、想像するに易しいのは後者だ。 殺されたい自分とて、様々な理由はあれども憎まれる道をこそ選んでいた。 こんな構造をユーリル本人が意識しているかどうかは別として、 普通の人間は、泣いて暴れる者を見過ごさない。 殺意を抱いて向かって来る者を、無視するほうが難しいのだから。 「少なくとも僕は、キミが思うようには分かれなくても――」 「アナスタシアっ! アナスタシア、アナスタシア……アナスタシア・ルン・ヴァレリアぁああッ!!」 イスラたち三人に守られる少女こそが、『無視する者』の貴重な例であった。 剣を振るいながら声をかける。口上や掛け声を放つのではなく、対話を行なおうとする。 障害を砕き、愚直なまでに真っ直ぐ彼女へ向かおうとすることをやめないユーリルの注意を引く。 おそらくは問いだろう、少女の否定に縛られた心を別の角度から揺らし、隙をついて物理的に押さえ込む。 睡眠ではなく強制的に気絶させ、ピサロや魔王らに対処するために、この手を選んだとはいえ――。 化け物じみた力の持ち主を相手にこれを行うのが離れ業であることは、彼女とて理解出来るだろうに。 (アナスタシア、アナスタシア。アナスタシア、か……) まるで、イスラが謳った死のように繰り返される一語が不快だった。 いかな覚悟や思いがあれども、死も、固有名詞も、耳に心地良く言うに易いものだ。 それほどに簡単であるからこそ繰り返せる言葉を聴く体が、動きを止めてしまうほどに。 アキラの力とジョウイの腕の両方で、ユーリルの間合いから引き離されるほどに。 両の肩が激しく上下する。適度に弛緩していた四肢が、こわばっている。 ――ありのまま、すべてを受け入れてやれ。 真意を隠して虚飾せずにいたことなどない、いままでのイスラには。 一時の怒りや苛立ちに流されてはならない、いまこのときのイスラにも。 あれほど泣きに泣いていてもなお、ブラッドにかけられた言葉が重く感じられた。 あれほど泣かされたヘクトルの素直さが、すがすがしくさえある感情の発露がつらかった。 ……ならばいっそ、ここでなにもかも投げ出してしまえれば、楽だ。 ふと、胸に降りてきた思いが、剣を握るイスラの五指に伝わらんとする。 いやにつよい衝動を見極めてかどうか。少年は肩を大きく上下させて戦場を視る。 紋章使いのジョウイに代わって、アキラが前線を支えようとしている。 ジョウイの放つ刃が、息をあげて久しいアキラに生まれた隙を的確に埋める。 彼らからは数歩も離れていないはずであるのに、わずかなりとアナスタシアの見るものがわかる。 分からない。是非は別として一歩も動かず、雨に濯われるばかりの彼女には、分からない。 この細胞が、五感が開いて脈打つほどの高揚。こうしたたぐいの必死を、彼女には量れまい。 様々なものを振り捨ててシンプルになる心のありようなど、理解し得ないはずだ。 そして、彼女に意識をやりながらも視線が向いているのは、たったひとりの人物である。 共感を覚える自分ですら投げ出してしまいたいとさえ思える少年――。 ユーリルの放つ声でなく、子どものようにゆがんだ顔つきが、彼から少し離れることで、よく見えていた。 どうしようもなくアナスタシアに引かれつづけている彼を、ここで見放してしまえば楽だろう。 自分のなかでくすぶりつづける感情ごと、ここで見過ごしてしまえば楽なのだろう。 だのに、この手は剣を離さない。 鼓動が、かつてないほど鮮やかに聴こえる。 乱れた息が、脈打つ胸が。 けして強いと言えない体が、いま。 なんのかげりもなく、 熱い。 月白が収まり、夜の帳が降りきってなお降りしきる白雨。 時など知らぬ豪雨を前にして、あごを引いた額が容赦なく打たれる。 剣を構えなおし、ユーリルを見据えていながらも、イスラは前に出ない。 夜気の冷たさに痛めたのどを動かして、からまり粘って仕方のない唾液を飲みくだす。 「こんなに大きな声なのに、聴こえないのかい? キミだよ。最初から、彼はキミについて言ってるんじゃないか……」 それに、前に出ていては、これは言えない。 これ以上前に出れば、自分は、ユーリルに引き込まれすぎる。 彼の胸でじくじくと疼き、血を流しつづける傷にこそ引かれてしまう。 そうして「彼」に近付くほどに、今度は「彼女」が見えなくなってしまうのだ。 再会などしたくなかった、自分の来歴を根底から否定した者から離れすぎてしまう。 自分やユーリルに問いを投げかけた者の、影すら判然としない距離に行ってしまっては、 「アナスタシア・ルン・ヴァレリア!」 この名前を呼んでも、意味が無い。 立ち尽くす彼女本人に声を届かせることなど、かなわない。 こちらの様子をうかがったアキラが、眉を引き締めてユーリルへ向かっていく。 彼とジョウイの、そしてユーリルの様子を俯瞰出来る位置にあって、超能力者の顔がゆがんだように見える。 どうやら頬をゆがめ、口角をあげて――笑ってみせたらしい。 「キミだって、諦めていたんじゃないか。縛られていたんじゃないかッ!」 苛烈な語調をつむぐ裏で、少年はいまいちど自身の言葉つきを確かめる。 彼にとっては、諦めることや切り捨てることは前提であった。 おのれの命すらそうすると自身が選び取ったことにこそ、意義を見出していた面もあった。 だからだろうか。 いくらアティのようになりたかったとしても、この言葉だけは止められない。 依然として消えないアナスタシアへの嫌悪感もあいまって、これは、止めようがない。 止めようがないなかに、引っかかりを覚える部分もあるのだから、なおさらだった。 (アティ、先生も……こうして色々……捨てて。もっと別の行動を……未来を諦めてきたのか?) いまならなにかが分かる。そんな気がしてさえいたがゆえに。 輝いているとみえた者にも、輝いている者なりの苦労があるようにも思えたために。 死と剣でものごとを解決することしか考えられなかったイスラ・レヴィノス。 状況の遷移を言葉で規定し、その行為でもって現状を許容し、相手よりも一段上に立つ道化――。 正しくは上に立ったふりをして、おのが言の葉で作ったかりそめの安寧のなかにあった、 自分が、いま。 「生きたかったんだろ! みんなで、楽しく、毎日を……生きていきたかったんだろ? なんで、それで誰かを殺すと決めたんだ。決めることが出来たんだ!」 矢面に立ち、言葉に思いを込めることで強く、つよく胸に打ち付ける雨と風を感じている。 死にたかった頃にも風雨があることは変わらなかったはずなのに、不思議と肩をすくめる気がしない。 それがアナスタシアへの意地だけでもなく、ユーリルへの牽制であるはずもなく、 「本当、嫌になってくるけど、きみだってぼくと同じだ。同じだから腹が立つんだよ」 きっと、どうしても諦められないというだけなのだ。 アナスタシアを嫌うからこそ、この怒りも断ち切れない。 少女のみせた作りものの笑みが、ふと、イスラの意識に浮かび上がる。 平行線を歩んでなお、作り笑いの浮かべ方だけはアナスタシアと似通っていた。 そうと確信出来ているからこそ、相手の中に自分を見るからこそ、どうしても許せない。 自分自身だけは、諦めて、落ち着いて、切り離して、許容してやることなど出来はしない。 作り笑いで、言葉で壁を作って距離を置いて、他人事のように眺めることが出来なかった。 自分に似ている者に対してなら、いくらでも冷たい態度をとることが出来るというのにだ。 いくら歪んでも、低く辛く厳しい評価をくだしてやる過程で、 アズリアの邪魔になると感じ、その思いを理解しないアティに反撥を繰り返す、 二人に会いたいと思いながらも、彼女たちに会えないような理由をさえ自身で作った、 イスラ自身が、そんな自分を道化であると認めてもなお、イスラだけは《イスラ》を見離せない。 どんな経過を迎えようと、経過のあとに結末があるかぎり、自分を抱えつづけることだけは、 けして、避けることなど出来ない。 (そうだ。……そうだよ) 結局、僕は『出来ない』んだ。 『出来ない』たぐいの人間なんだ。 (でも、人間って誰のことだ。たぐいのって、いったい何をもって分けたんだよ) 悪癖がまた、顔を出そうとする。またも自分が嫌になる。 自分を許せなくなり、――とても、このままではいられなくなる。 さかしらな言葉を操り、辛辣ではあるがまとまりのいい語彙で、すべてを定める。 言葉で本心を偽れると言いながら、結局、自分は言葉でもって枠を作っているではないか。 『出来ない』と、真っ先に決めた枠のなかでしか動けないのがイスラ・レヴィノスではないのか。 「前に進むことを、幸せでいられる自分を、幸せを認められる自分をさ――」 ……ほんとうに、嫌だった。 これだから、生きているのは嫌だった。 一日一日、生き延びるたびに敗北感がつよくなる。 日がおちたその時、本当は生きられなかったと気付いた自分が嫌になる。 そして長い夜には、ここにいるイスラに出来なかったことをばかり反芻してしまうのだから。 思い出すほどに生への嫌悪は吹き払えないままだというのに、どうしてか。 必死になってまで、言葉を操って八つ当たりをしているだけの胸で怒りが持続しない。 それどころか『出来ない』ことが、許せないことこそが誇らしくさえ思えてくる。 いま、ここで。自分に投げられる石がある事実に直面した胸が、ひときわ大きく跳ねる。 「生きるために罪悪感を抱くような手しか選べなかった時点で、とっくに。 あがいてなんかいない、勝手にっ、――諦めていたんじゃないか!」 ユーリルをとおして、イスラは自分の一面ををうとんだも同然だった。 アナスタシアをとおして、イスラは自分の一面を否定したも同然だった。 それなのに。自分に対してすら許容の出来なさを明らかにしてしまったはずの、 イスラには、まわりがよく見えていた。線の細いと認めざるを得ない背筋が、気負いなく伸びていた。 自身の基盤が危うくなるような言葉をつむいでいるのに、予想したよりつらくもなかった。 そしてなにより、生きたいなどと思えないことには変化がないというのに。 嫌だ。 幾度も胸のうちで繰り返した言葉が、なにか、いとけない。 がむしゃらで小児的で、みっともない物言い――。 そしてなにより、素直であることも疑いようのない否定の一語は。 なんとも心地のよい響きを、有しているように思えたのだ。 ×◆×◇×◆× 【3】 いまの自分が《刃》とともに、《盾》を携えていようとも。 ジョウイ・ブライトは、究極的には力で他人を傷つけることしか出来ない。 自分に向いた得物さえない現在、相対した者を無力化するといった行動に向くとは言いがたい。 それこそが両の手、おのが基底に紋章を刻んだ少年による自己分析であった。 冷徹をとおりこして冷酷でさえある評価は、それが真実であるからこそ下せたものだ。 過不足なく実力を直視出来る目があるからこそ、彼はここに留まった。 アナスタシアを守る目的をとおして二人に加勢することを選んだ理由は、単純なものだ。 いかに疲弊が見えたとはいえ、雷の嵐の向こうへ消えたピサロを単騎で倒すことが、非現実的であるから。 かりにここで潰せるとしても、継続戦に際しての力を残した状態で押さえられはしないと断じたからである。 「アナスタシア……アナスタシアぁあああ!」 とはいえ、先ほどの説得が巧く運ぶ目にも積極的に賭けていたというわけではない。 そもそも剣士の少年は、途中から言葉をかける対象を明確に変えていたのだ。 《勇者》を辞めたという少年から、マリアベルに守れと頼まれた少女に。 言葉をぶつけた結果、最も顕著にあらわれているものが、もと《勇者》の絶叫である。 特段、アナスタシアを大事にしているわけでもないと知れたであろう、剣の使い手にも――。 いいや。彼女のなかにあるらしい矛盾をあばいた彼にこそ、少年の声は向けられているようだ。 アナスタシアを見ているようで、別のなにかと直面していると知れる声が、曇天をおぼろに穿ちつづける。 「……助かったよ」 叫びのひとつが雷と変じ、それを盾の紋章で相殺した、次の瞬間である。 憮然としながらも、どこか脱力しているような声が耳朶をかすり、夜の空気がはっきりと動いた。 あどけないとさえ言える表情を引き締めつつも、黒髪の少年が前線へと舞い戻る。 うすく、闇を思わせる紫を帯びた反り身の剣。 彼の携える得物が《勇者》の剣に噛み合うさまを認めたジョウイは、少しく包囲の角度を変えに動く。 自分の目的をかんがみれば、もうひとりの魔法使いのように肉薄するというわけにもいかない。 最善手とは言いがたいが、少しでも体力の消耗を抑えるためには、計算こそが肝要だった。 剣士の言ったような泥仕合と、魔法使いが口にした精神的な満足とを秤にかけ、ふたつの意見が調和する ぎりぎりの線を保って綱を渡りながら、可及的速やかに戦いを収束させる――。 言うだけならば、これほどに容易いこともそうそうない。 だが、この結果を引き寄せてからジョウイの本番、正念場が始まるのだ。 様々なものを切り捨てたいま、両方を捨てない態度を問われることも皮肉だが、仕方がない。 (だけど……) だけど、けれど、それでも。 ジョウイにとっても彼らは自身の、あるいは誰かの鏡なのだと感ぜられてならなかった。 とくに一途にひたすらに、アナスタシアの名をつむぎ放つ、緑色の髪を乱したひとりの少年。 もとは《勇者》であるらしい彼が戦うさまは、ジョウイのなかへ重く沈んでいる。 まるで水の綾がごとく、憎しみに駆られつづける彼の姿を認めた心がさざ波だっていた。 そして、黒髪の少年がつむぎあげた泥まみれの言葉。アナスタシアへの口上が重ねて胸へと響いてくる。 経緯など欠片ほども知り得ないとはいえど……彼らのありようは、ジョウイの瞳を痛みとともに開かせる。 未消化の、泥のごとき感情の奔流は、彼のなかで息づく問題を直視することをこそ拒ませない。 それを汲み取れないのなら、きっと。 彼はいま、このとき、ここになど立ってはいない。 「なにも、《勇者》だけじゃない。先駆者はつねに捨て石だ」 血と肉でもって構成されたかのような、しずかな『叫び』とてつむげなかった。 ……けれどもこれは、絶対に最善手ではない。 最善どころか、下手を打てば墓穴を掘りかねないと、分かっているのに。 理想を貫こうとあがき、進み続ける少年のこぼした声は、ある種の感慨に満ちていた。 感慨などと、穏やかでさえある感情で終わったことに、誰よりもまず、口を開いた彼自身が驚く。 夜の陸風に流れた雨を受けてか。緑がかって柔和な印象を醸す瞳が、わずかながらも細まった。 「だけど、それは。そうなることは……僕自身が選んだことだ」 当然のことだが、言葉をつむぐほどに、ジョウイからは集中力が失われる。 戦況の変化こそ少ないものの、もとの位置にまで戻ったとて、今までのような状況の把握は望めない。 声を出す。寄り道に力を使えば使うほど、本筋へ注げる力が減ずることは考えるまでもないはずだ。 それなのに、胸でくすぶる思いをかたちにせずにはいられなかった。 黒髪の剣士が見せた表情、けわしさの少しく削げ落ちた顔つきが、妙にうらやましくある。 いまや、先刻とおなじ精緻さで剣をぶつける彼にそれを招き寄せた行為には、ジョウイとて覚えがあった。 ――それを遮ってでも、やるべきことが、貴方にはあるというの?―― アナスタシアは、いまだなにも言葉を返さない。 ひるがえって、自分が彼女の問いかけに答えていなかったら、どうなっていただろうか。 覚悟を内に秘めているのと、死を逃れ得ない相手とはいえ対外的に決意を口にしたのとでは、いったい、 どちらが分かりやすくなるものか。 どちらが重みを実感出来るかたちで、胸におさまるものなのか。 ジョウイはそれを知っている。 彼に向けられたものではないとはいえ、ここにいる、彼らの問いに答えるだけの強さがある。 道をたがえたリオウとナナミ。親友の心に恥じないために。 自分を慕ってくれたピリカのために、自分を愛してくれたジルのために。 夜天に輝く『魔法』を見せてくれたリルカの、優しさを示したルッカの、故郷における立場や因縁を振り切って 自分たちに助勢したビクトールの、黙り込んでいた自分を我慢づよく待っていてくれたストレイボウの、 彼らだけではない、故郷や、この場所で出会った、皆の思いを汚さないために。 ジョウイの胸に沈んだ思いを、自己犠牲のそれなどと評する者もいることだろう。 誰かのために骨を折ることは、誰かのせいで動いていることと限りなく同義に近いのだから。 だが、違う。 確かに、ジョウイはこの道を歩むため、様々なものを捨ててきた。 魅せられた力に到達すべく、彼を彼であらしめた証を端から圧し殺し、切り捨ててきた。 その上で血塗られた《英雄》となり、自身の命を振り捨てることで平和を作ろうとしてはいたのだ。 だが、彼の行動の礎となった思いは使命感でも、義務感でも……きっと、正義感ですらない。 暗殺したアナベルへの、あるいは理想のために殺してきた者への罪悪感でもあり得ないはずだ。 では、理想の前にあったものは、なにか。犠牲を生むほどに強い思いは、なんだったのか。 どうして、ここに立っている自分は、他の誰もを傷つけたくないと考え得たのか。 道を違えたとても目指す場所が同じなら、どうして、歩いていけるのか。 同じであることに安堵する理由とは、いったい、なんだったか。 迷ったのなら、誰も問いかけないのなら。 問われなくとも、問いかける自分にこそ応じて――。 「それなら。この傷も、この力も」 かたちにすればいい。 明瞭なかたちにしてしまえば、過不足なく受け止められる。 人とのあいだにつながりを作り得る、言葉。 ときに刃を掲げさせても、刃を収めうるであろう、それが運んでくる感覚をこそ。 自分は、信じていたい。 剣に追随する雷を防ぎ、陣を整えるべく体をさばいた、息が熱かった。 上昇した体温に反し、夜気と雨打は冷たくとがり、体の表面を冷やしていく。 しかしてのどの粘膜を侵しつづけていた、冷気が。ふいに甘く、濃い後味をのこした。 刹那――激しい運動を続けていた結果、ぜえぜえと鳴りさえしていた呼吸がひととき安まる。 ひとときあれば十分だった。ひとときあれば、目の前に広がった世界を、過不足なく見据えることがかなう。 「犯した罪も……胸に息づく思いも」 理想と犠牲。 自身の作り出したふたつの荷に、ジョウイはとらわれ、操られていた。 けれども勇者を直視した少年の根幹で、いまの彼を動かし得ているものは。 激情に両肩をふるわせる少年の奥底で、いまも彼を縛りつけているものは。 「いままで、それを選んで、受け取って、刻んできた僕の背負うべき」 それはきっと、リオウへの。ナナミへの、ピリカへのジルへのリルカたちへの、 それはきっと、今までの生で見聞きしてきた、戦火のなかで生き抜く人々への、 「――背負いたいものなんだッ!!」 好意に、他ならなかった。 思いのままに張り上げた声に、響いたこころに呼応してか。 彼の基底に刻まれた《輝く盾の紋章》が、夜闇にさえかな輝きを放つ。 ……ルカ・ブライトの恐るべき力は、さらなる力と数と策によって滅ぼされた。 人の心とて、ときに、あれと同じような構図が成り立つこともある。 使命や正義、義務などといった、強い拘束力をもつ単語。 怒りや憎しみのような、ときにおのが身さえ灼き尽くす思い。 自分がすべき、やらねばならないという、張り詰めた語調の言葉。 そんなものだけで気を奮わせたところで、追い立てられた心が折れる未来は遠くないはずだ。 しいて強くあろうとしても肩肘を張るだけ、周りの世界は棘を増して見えるのだから。 ルッカを看取ったあとに同道してくれていた魔法使いの青年。ストレイボウ。 焦燥に駆られていた彼にもそんな色があったと、ジョウイはいまにして気付く。 しかして、こちらに好意さえあれば、この目と心に見えるもの、すべての色調が反転するのだ。 好意を得、好意を抱いた者のためならば、自分は身を削り、身を粉にしても構わないと思える。 行き着く先で命すら捨てようとも、それほどに本気になろうとも、大丈夫だと思っていられる。 ひとの好意を勝ち得た自分の、ひとに好意を抱いた自分の糧となるなら、苦痛にも耐えられる。 自分が耐えているという感覚すら、胸の中から失われる。そんな瞬間すら感ぜられようほどに。 ピリカを抱きあげたときの、温かさに焦がれる自分が、いまでもたしかにいると気付いたのだ。 ならば……それならば、ここに立つジョウイ・ブライトは。 いかな誤解も、悪意も恐れることもなく。すべてに耐えて、光を目指していける。 どんな作為にも、敵手にも運命にも、こうべを垂れることなく立ち向かっていける。 どんな言葉を刻んだとて、どんな行為を義務づけたとて、縛り得ないはずの心。 もろくもうつろう思いを優しく縛りうるものの正体を、少年はこれしか知らない。 ずっと、ずっと胸にあふれてやまなかったのだと気付いた、《これ》こそはたましいを。 穏やかではあれ、抱く者のこころを内奥から揺すり、つよい衝動を沸き立たせる思いだと感ぜられる。 衝動に揺すぶられたからだが、思わず前へ踏み出すほどに強い、『魔法』のような気持ちだ。 誰を殺したか、何人殺してきたか。一体どれだけのものを、自分のために踏みにじってきたのか。 そんな問いかけを繰り返し、自身を鞭打ちつづけたとて、この気持ちにはかなわない。 (ああ、そうだ――) 理想を貫く際に負った荷から解き放たれてなお、自分はきっとこの道を選ぶ。 力があれば。たとえ、ハイランドのキャンプでルカの力と出会うことがなくとも――。 きっと、なにかを探していたのではないか。きっと、自分の道を見つけていたのではないか。 根拠も理屈もない確信が息づいて、いまだ揺らぐジョウイの背中をおびただしい雨滴の群に押し出す。 彼らの笑顔を守るために。彼らの幸せを諦めないために、自分の理想も諦めない。 そうと信じられる思いが、確かにまだ、この胸に息づいているのだから。 ジョウイがすべてに《耐えられるもの》は、高邁な理想でも崇高な使命でもなかったのだ。 (きみが。きみたちが、僕を) たとえば、ここで膝を折ったなら……。 リオウも、ナナミも、リルカもルッカも、きっと許してくれる。 少なくとも、彼を憎んだり、悲しんだり、哀れんだりはしないだろう。 違う道を目指して行ったとしても、自分たちの根にあるものは、きっと同じなのだから。 それなら、本当はここで立ち止まっても、構いはしないはずなのだ。 それなら、きっとここで振り返ったとしても、許されるはずなのだ。 仮に二人が、皆が惑い、立ち止まったとしても、同じだ。 先刻ストレイボウをかばったことを自嘲すれど、そこに計算はないと断言できる。 ジョウイ・ブライトが許し、いたわりたいと思えるのは、なによりも人だ。 代わりなどいない、かけがえのない、ここにしかいない――。 いま、このときを生きようとしている、人間だ。 「どんな思いも、どんな選択の結果も、僕だけが受け止めるべきものだ。 誰に押し付けていいものでも、ないんだ……これは」 それならここで、自分は、退けない。 退くことも、折れることも、許されることも出来はしない。 究極的には、きっと、誰かのためなどではなく、 「これが、僕だけの『魔法』だ!」 自分のために、少年は叫んでいた。 マリアベルの友であるアナスタシアが、リルカを知っているかどうか。 リルカの大事にしていた『魔法』で、果たして、動かない彼女を動かしうるか。 そんなことは、前進を望む心が欲するままに声をあげるまで、意識などしていなかった。 思いを託した声がつかねて落ちる濯枝雨(たくしう)を突き、分厚い雲におおわれた空にと抜ける。 天の海にも心の海にも立ち込めていた雲が、いちどきに晴れたかのような感覚がある。 自身の息づかいがはっきりと分かるようになった闇の中で、それでも指先が痛い。 地を踏みしめる脚に、脚を支える腹に、張り出した胸に、肩に、五指に爪に、かるい痛みがはしる。 ぴりぴりとした感覚は、しかし、ジョウイの行動を押し留めることなど出来なかった。 生きている。右手が輝く。生きているのだ。赤黒い刃が雷を射止める。玉水が弾けて舞い落つ。 確かに、自分は。 ここに立ち、ここで目を開いた自分は、確かに生きていた。 己の掲げた理想に、ただただ生かされているというわけでなく。 己の規定した犠牲に、縛られつづけているというわけでもなく。 その事実に揺れ、迷いのなさにこそ戸惑う自分も、なにもかもすべて。 おのがすべてをひっくるめて、 生きている。 ジョウイ・ブライトは、いまここに、生きている。 それだけは確かで、それだけは誰にもくつがえせない事実であった。 じくじくと疼く痛みも、罪悪感も、それを生んだ自分自身が受け止めているのだ。 湿り気を帯びた夜風を前に《黒き刃の紋章》が刻まれた右手が拍動し、ぬくみを増した。 雨にさえぎられてなお蒼穹に輝く綺羅星のごとく、《輝く盾の紋章》が清澄な輝きをのぞかせる。 それが分かったからには、もう、止まれなかった。立ち止まることなど、考えられなかった。 道を進むほどに孤独が、孤高が迫ろうとも。果ては憎悪に貫かれようとも、構わない。 揺れ惑い苦悩し、おのが力を、心を、たましいを削って果てるより他にない道を往くのだとしても、いい。 自身の抱いたそれと分かる思いを背負えることのほうが幸いなのだと、信じられているのだから。 もはや後戻りの出来ない、安楽な日々に背を向けるのと変わらない、この選択。 迷いも、後悔も、他人へ好意を抱いたジョウイ自身のためにあると決める、覚悟と諦観。 先にあるのは、それを許容した少年だけがすべてを背負い、傷を抱えて進むいばらの道である。 いつかのように、間断なく続く障害の先にこそ光を見出したとき、雨呼びの北風が吹きすさんだ。 このときばかりは大粒の雨も流れ、流れて、少年たちの体を容赦なく打ち据える。 まるで見えない棘が指を突くかのように、雨滴は衣服に、肌に染みこんで衝撃を残す。 もう、何度目か。雷の竜を前にしても、ふたたび、剣戟の音が耳朶を刺すほどに近付こうとも。 ジョウイはひるまない。 歩む道を定めた自分を信じて、彼は、闇の溜まりへさらなる一歩を踏み出す。 胸に落ちた決意、その証左を顕すべく。 すべてを抱き取り、生きて、夢より大事な望みを果たすために。 ……ジョウイは、知らない。 いま、彼のかたちにした結論は、目の前で慟哭する少年が至ったもの。 陽の落ちる前、少女に出会ったユーリルが突き当たった思いと質を同じくすることを。 ジョウイには、分かれない。 ――人々のため戦い勝利を得る道。これはイバラの道なれど王道です―― いまふたたび、彼が見出し選び取ることのかなった覇道は、おそらく。 その過程はどうあれ、親友の決断と同じ評価をくだされるべき類のものであることを。 ×◆×◇×◆× 時系列順で読む BACK△114-1 きみがぼくを――(ne pas ――――――――――)Next▼114-3 いばらのみち――(ne pas céder sur son ―――) 投下順で読む BACK△114-1 きみがぼくを――(ne pas ――――――――――)Next▼114-3 いばらのみち――(ne pas céder sur son ―――) 114-1 きみがぼくを――(ne pas ――――――――――) ユーリル 114-3 いばらのみち――(ne pas céder sur son ―――) アナスタシア アキラ イスラ ジョウイ ピサロ ▲
https://w.atwiki.jp/catrpg/pages/17.html
猫RPG1 ストーリー 朝いつもどおり、のんびり朝を迎えたのだが、 ふと気づくと家族の姿も、アリスやクロアの姿がなかった。 このままでは…「ご飯が食べられない!!」 そう思ったバジル一家は家族を探す旅にでるのであった…。
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/352.html
その罪を識る時 -Fallere825-(前編) ◆wqJoVoH16Y 彼が今『此処』に至った意味。 それを理解するには『はじまり』と『おわり』の両面から見極めなければならない。 彼はその右腕に人を殺す機能を有し、その脳裏に人を殺す理由を有していながら その機能を全く人を殺す方向に用いていなかった。 あろうことか他者を守り、他者を癒す為に機能していた彼は、ともすればこの戦いで一番の無能ともいえただろう。 折角の名刀を野菜炒めに用いるようなもの、これでは刀が泣くと言うものだ。 だが、彼にしてみれば“そんなことはどうでもよかった”のだ。 彼がその刃を振うのは悦びを得る為ではなく、刀を喜ばせる為でもない。 ましてやこの殺し合いを見下ろして愉しむ輩を歓ばせる為でもない。 彼が剣を振い、戦い、殺すのは徹頭徹尾自身の望みの為であり、そして彼はその刀の遣いどころを弁えていた。 そう、剣とは、斬るべき理由で斬るべき時に斬るべき場所で使わなければ意味がない。 ならば、彼がまず為すべきは“斬るべき時と斬るべき場所を見極めること”だった。 知っての通り、彼は殺し合いを打破しようとする者達に与した。 そこには彼の心に沸き立つ“うずき”のような小波があり、 また、彼が勝利するに当たって強大な力を持つ殺戮者達を倒す必要があるという理由もあった。 だが、それだけの理由・感情で形にするには彼の行為は積極的に、強力に過ぎた。 攻勢への布石は模索すれど実際に置くことは1つと無く、朴訥に英雄に与するその様は、 一見すれば、本来の立場を失念していたようにすら思えるだろう。 だが、感情で英雄達に協力する一方で、彼の理性もまたその支援を『善し』としていた。 彼が幾度となく迷いながらも、決して片方の道を棄てることがなかったように。 自身が知る情報に虚偽を混ぜたところで、それがどう影響を及ぼすかも分からない。 自分が手を汚せば、どれだけ隠蔽しようがそれがどのような形で露見するかも分からない。 限られた情報でも策を巡らせば、短期的なスパンでならばそれが効果を予測できる。 だが、それが長期的にどう転ぶかは分からない。蝶の羽がいつ何処で嵐を起こすかも分からないように。 分からない、分からない、そう―――――――分からないのだ。 故に彼は殺害に結び付く一切を行わなかった。 まったくの白地図から始まったこの戦いに於いて、自身の行為がどのような影響を及ぼすかも分からない以上、 その内に戦術レベルで策を繰り出すことに意味はないのだ。 ならなするべきは1つ。この戦いの第一理念―――――徹底的に“生き延びる”ことに徹することなのだ。 故に、彼が英雄達に与することには意味がある。彼の力は独りで戦局を変えるには心許無くとも、 誰かの背中を押して戦いの流れをズラすには強力であったから。 セッツァー=ギャッピアーニが殺戮者側から天秤を動かしたとするならば、彼は英雄達の側から天秤を整えたのだ。 生きて歩き、生きて見、生きて体感する。生きて知り、誰よりも早く終『盤』へ到達する。 策を巡らせるのは、それからでも遅くはない。 そして、あの雨の乱戦を英雄達の側について生き延びた彼は、 優勝を望む者達の中で誰よりも早く、この盤面の全貌を理解した――――――この戦争が『詰みかかっている』ことを。 この島で混沌と行われていた殺し合いを秩序ある戦争と見立てた時、 彼を含め、最後の一人になることを望む者達にとってこの状況は王手一歩手前だったのだ。 4度目の放送までに呼ばれた者達を名簿から逆算した残りの生存者は、 アキラ、アナスタシア、ユーリル、魔王、アシュレー、ゴゴ、ちょこ、カエル、マリアベル、 ストレイボウ、ヘクトル、ニノ、ピサロ、ジャファル、セッツァー、イスラ……そして彼本人を含めれば17人となる。 そのうち、雨夜を生き延びた者達の中で、オディオに反逆しようと集ったのは アキラ、アナスタシア、ユーリル、マリアベル、ストレイボウ、ヘクトル、ニノ、イスラの8人。 優勝・快楽を問わず、他者の殺害を目的として戦っていたのは 魔王、カエル、ピサロ、ジャファルの4人。そして得られた情報の齟齬、そしてその失踪の状況から、 限りなく殺意を以て行動していると考えられるセッツァー。 計13人。即ち、生存者の4人に3人はこの盤上に於ける在り方が確定しているのだ。 そして、自分を除く残り3人、アシュレー、ちょこ、ゴゴの在り方もルカ=ブライトの死から類推できる。 4度目の放送で死んだのはリンディス、シャドウ、ブラッド、ロザリー、トッシュ、トカ、無法松、そしてルカ=ブライト。 この内雨夜の中で死んだ者を除くとシャドウ、トッシュ、トカ、無法松、ルカ=ブライトの5人。 つまり、最大7人であの狂皇子を仕留めたということだ。 ルカは獣の紋章に匹敵する大規模殲滅術を用いたらしく、それも加味すれば、4人の死体というのはまだ納得のいく数字だ。 そして、その生き残りに果たして殺し合いに乗るものがいるだろうか。 この島で2番目に知った名前を持つ“アシュレー=ウィンチェスター”が。 あの生き残る嗅覚に長けたアナスタシアが使えると確信し侍らせた少女“ちょこ”が。 ナナミの亡骸の前で彼女から聞いた物真似師“ゴゴ”が殺し合いに乗るだろうか。 それは有り得ない。これは情報の信頼性以前の問題だ。 もし彼らが何らかの変節で殺し合いに乗っていたなら、逆にルカを討つことが更に難しくなる。 ルカとは、十重二十重と策を巡らし無数の戦士達を用いて漸く殺し得るルカ=ブライトとはそういうものなのだ。 無論、それを以て断定することは出来ないが、そうであればより最悪の状況を想定するべきだ。 それ即ち、残る3人がルカを倒して生き残り、強固な結束を持っている場合。 つまり、最悪を想定した場合この盤面において、 C7にアキラ、アナスタシア、ユーリル、マリアベル、ストレイボウ、ヘクトル、ニノ、イスラの大軍が鎮座し、 加えて一目確認できれば確実にマリアベル達と協力するであろう、ルカを倒すほどの遊撃部隊がどこかに存在している。 対して殺戮者はどうか。北にセッツァーとジャファル、西にピサロ、南の遺跡にカエルと魔王。 セッツァーを除けばいずれも損耗し、散り散りとなってしまっている。 単純戦力比11:5。これを詰み一歩手前と言わずしてなんという。 当然、それに気付いた彼に悔いがなかったわけではない。 こうなる前に何か手を打てたのではないか、もう少し天秤を整えられたのではないか。 だが、彼はその贅沢を堪えた。 悔むだけならば誰にでもできる。重要なのは過去を知って現在を掴んだ今、未来をどうするかだ。 誰よりも早く『詰みかかっている』ことを知った彼は、誰よりも早く『まだ勝てる』ことを知ることができたのだから。 勝利に向けて、彼はこの島における行動の中で最速の一手を放った。 彼だけが見切った『ある理由』から、この窮地に於いても魔王オディオが天秤を調整することは期待できない。 これだけの人数・情報が集まれば、マリアベルの首輪解析・対オディオ攻略は爆発的に推進するだろう。 なにより、マリアベル達にしてみればどこか一角のマーダーが崩れればその時点で完全に詰ませられるのだ。 最早、彼にはリスクを躊躇する猶予は残されていなかった。 この時点での彼は知る由もなかったが、彼の持つ嗅覚はある意味的確に作用していた。 彼が盤面を掴んだ時、この盤の裏側――――夢の世界では既にアキラとアナスタシア、ユーリルとアシュレーが邂逅してしまったのだ。 あと一歩着手が遅れていれば、彼らとアシュレー組の合流が最優先事項となり、 合流から駆逐に向けての流れを食い止めることは不可能だっただろう。 本当に、本当に紙一重の先手だった。 だからこそ、ピサロ誘導とセッツァー・ジャファルへの接触から始まる彼の鬼手――――― 『残存する全マーダーによる大同盟』はその息吹を勝ち取ったのだ。 利害が複雑に絡み合う群雄割拠の乱世―――例えば、このバトルロワイアルのような―――ではほぼ有り得ない同盟。 しかし、その効果たるやただの同盟などとは比べ物にならない。 その威力たるや“ただの都市の群が強大な王国を滅亡に追い込む”ほどの力を持つ、最強の同盟である。 散った殺戮者達を南北の2つにまとめ上げ、マリアベル達を両側から攻略する。 この劣勢極まる盤面を覆すには、彼の友がかつて成し遂げた奇跡を成就するより術はなかった。 口で言うは易く、行うは不可能に等しいこの鬼手にジョウイは挑んだのだ。 マリアベルが南征を告げるや否や、即座に北へ移動。 ここまで己の立場をグレーゾーンに隠匿し切ったセッツァーの人物を見極め、その能力を確認した。 算術を弾くことのできる知性、ヘクトル達が警戒するジャファルを味方につけるその人間力。 そして何より、勝利の為に必要なことを理解し、実行できる胆力。 直接その存在を確かめた彼は、同盟軍の盟主足り得る器をセッツァーに認め、 彼らが置かれている状況と、ピサロという強大な『可能性』を譲渡した。 セッツァーが本物であれば、北側の戦力を取り纏め同盟軍の意図に乗ってくるだろうと。 少なくとも、開戦するまでは互いに想定通り動くはずだ、と。 ピサロが順当にセッツァー達に合流したのを確認して、彼は再び南に舞い戻った。 自分が取り持つまでもなかった以上、セッツァーの価値は期待通りに機能している。 後は自分がマリアベル達の行軍を調整し、魔王達への接敵タイミングを整えれば同盟軍は完成する。 するはずだったのだ。 だが、先ほども言った通り、全てを掌握できないこの戦いに完全な計略など存在しない。 彼の計略は綻びた。 彼はセッツァーという男を僅かに浅く見、彼はブリキ大王というジョーカーを見逃し、 そこから生まれた怪物の誕生に介入できなかった。 ゴゴという名前の怪物を救おうとした少女と出会い全てを知った時、彼は自分が出し抜かれたことに気付いた。 そして、怪物が救われた時、自身の計画が破綻したことを悟った。 ちょことゴゴを組み込んだマリアベル達の目は既にセッツァーに向けられ、今更誘導などできない。 この反転行軍の隙にセッツァーは魔王達と接触し、同盟軍を再構築するだろう。 彼は、彼が組みあげた構想をそっくりそのままセッツァーに奪われたのだ。 彼はセッツァーの理性を見極めたが故に、ただ利用されることを善しとしない『感情』を見誤ったのだ。 そうして彼は詰んだ。この後に起きるのはセッツァー達5人の連合軍とマリアベル達10人の真っ向勝負か、 先んじてマリアベル達が動き、セッツァー達を攻めて10対3の駆逐戦か。 それでも、セッツァー達が勝つ可能性がないわけではないだろう。だが、それではだめなのだ。 それでは『混沌』は生まれないのだ。彼が勝つためには、混沌が絶対に必要なのだ。 僅かな可能性に縋り、彼は耐えた。この詰んだ局面を崩すことのできる要因を。 アキラがから夢の中の物語を聞いたことで僅かに残った、死中の蜘蛛の糸を。 だからこそ、その活路―――――――アシュレーとアキラの合流を知った魔王達が 合流を阻止すべく目の前に現れたとき、彼は決意した。 今こそ、為すべきを成すべき時なのだと。 もっとも、魔王達がこの場所へ訪れた理由が全く違うことに、その時の彼は知る由もなかったが。 兎にも角にも最後の“混沌”――――全参加者による決戦は完成した。それこそが彼の欲した状況であり、計画の前提だった。 とりあえず、彼の現在の近傍をざっと『読み込み』すればこの程度のことは簡単に理解できる。 だが、それでは“これ”はあまりにも噛みあわないのだ。 殺戮者達の力、効果を最大限に活用できる攻囲戦が展開されたことで、オディオに抗うもの達は苦戦を強いられるだろう。 当然、何人もの死者が期待できる。 だからこそ彼らの中に潜み優勝を伺う彼が為すべきは、完全に敵と見切られるまでに少しずつ足を引っ張り、 彼らと殺戮者達の戦力を限界まで均等に削ぎ、最後の最後で消耗した者達を殺すことのはずだ。 なのに、まだ敵も味方もほぼ健在である今、彼は自らコトを起こしてしまった。 こうなってしまえばイスラ達は彼を明確に敵と断定するだろう。 今さらゴゴがオディオを再発するかもしれないから、などという言い訳も通用しない。 マリアベルがいない今、イスラの懸念を誰も妨げられない以上、最早彼に彼らの中での居場所はない。 かといって、殺戮者達と共同戦線を張れもしない。 この終局に於いて、裏切り者を今更囲い込むリスクなど誰も負いたくないからだ。 精々、仲違いしてくれれば纏めて殺せて重畳という程度だろう。故に殺戮者の中にも彼の居場所はない。 独り。彼はまだ10人近くの参加者がいる中でぽつねんと孤立してしまったのだ。 彼は、心底待ち望んだ混沌を、自ら棄却してしまったのだ。 何故? なぜ? Why? 『読み込み』ながら『私』は考える。深く、深く、始まりへと向かって考える。 死に瀕したが故に一矢報いようとした? Non,それならばわざわざ致命傷を貰いに行くこと自体がおかしい。 失血による思考能力の低下? 否定。彼は明確に刺すべき相手を見極めていた。そこには確かな計画性が存在している。 戦力を削る乱戦の利を彼は“計画的に”放棄してしまった。 10人強の相手を、1人で相手取ることなど不可能だと言うことは、自分が一番よく知っているだろうに。 ―――――逆? 彼は、捨てていない? 捨てたのではなく……乱戦を“戦力を削る為”に用いなかった? そうか、そうか! 『私』はこの島での彼の始まりまでを『読み込んで』漸く彼が今ここに至った確信に至る。 彼は最初からこの乱戦に期待してなどいなかったのだ。 考えて見れば明白だ。あの雨夜において死んだのはロザリー、リン、ブラッドだけ。 殺戮者側に死者がいないとはいえ、つまりはその程度、歴戦の殺戮者が4人も集っても“これが限界”のだ。 数を揃えた英雄達相手との、この如何ともし難い力の差が出始めているのだ。 無論、あの雨夜の戦いは誰もが想定しない不慮の遭遇戦であり、どの殺戮者達も命懸けで戦うつもりはなかっただろう。 故にロザリーの死によってピサロが戦意を喪失し、戦線が崩壊した時点でカエル達も撤退したのだ。 それに比べれば、今回の彼らは大きく異なる。 直接状況を伝えたセッツァー達は当然のこと、魔王達の闘いぶりからもハッキリと分かる。 彼らは皆ここで趨勢を決さなければ後がないと知っている。故に退かないし退けないのだ。 そしてセッツァーが北側をまとめ上げたことで、5人の殺戮者達は限りなく連携をとれている。 だが、それは彼らも同じことだ。 アシュレーとの合流は出来なくとも、ユーリルという勇者が潰えたとしても、 ちょこの加入・ゴゴの復帰、更には首輪解析の大きな進行によって、希望に照らされた彼らの結束は今や最高潮なのだ。 彼はそれを肌で感じてしまっている。 互いに連携と結束は五分、ならばやはり数の差がそのまま勝敗の差に繋がってしまう。 そしてその差は、彼一人が暗躍した所で埋められるものではない。 殺戮者側は、どうあがいても、彼らの王道を止められはしない。 そしてこの戦いの後に生き残るもの達を1人で殲滅する力など、彼にはない。 マリアベルを見殺した以上、最早彼らの絆の中に紛れ込むことも出来ない。 彼がマリアベルを見殺したことが露見するかどうかはともかく、愛ある中立を貫いた彼女がいなくなった以上、 彼らの思考は必ずやイスラのベクトルへ誘導されるだろう。悪くて吊るし上げの魔女裁判、良くてアキラのサイコダイブだ。 混沌を全うに使った所で、彼が活きる道は残されていない。 “だから”だ。 この混沌で彼が為すべきは、汚れ切った『羊』の皮を被り続けることではない。 むしろその逆――――彼が独りでも勝てるほどの“力”を掴み『狼』となることなのだ。 ――――だから彼は、混戦を目晦ましだけに用い、ここに至った。 彼は最初から他者の力を削ぐだけでは勝ち残れないと知っていた。その中で、自分だけの力を掴まない限り、勝てぬと知っていた。 だから誰もが彼がまだ動かぬと思っている内に、殺戮者がまだ残り彼らの注意が自分に向く前に動いた。 危機を煽り、さもこの場を打開する為の妙案と嘯き、聖剣を抜かせて。 血と共に溢れる命を輝く盾の最大の力で僅かに補い、その残る命の全てを両腕に込めて『私』を物真似師の“心”に向けた。 『お前』が国を興すに足ると欲した力――――『色の無い憎悪』を得る為に。 どうだ、当たりだろう。……全ては『此処』に、この私を……『紅き暴君<キルスレス>』を手にするために仕組んだのだろうッ!? ジョウイ=アトレイドッッ!! 「お前は……」 何処ともいえない虚空の中で、漸く己が輪郭を認識したジョウイが言葉を発する。 自分は確かに紅の暴君をゴゴの中に突き刺し、この眼で見定めたゴゴの中の力を紅の暴君に封印したはずだ。 ならば、これはその結果だというのか。 「ああ、そうだ。貴様のちんけな目論見の通り、我が中に無限にも近い力が宿った。 剣の中にある分量しか存在しなかった我が、こうして形を取り戻せるほどにな!」 何者かの声がジョウイの脳に、精神に直接響く。 これが、話に聞く魔剣の意志だというのか。 「お前が……紅の暴君?」 「紅の暴君は我が力の端末に過ぎぬ。何だ、自分が欲しようとした力の名前も知らぬというか。 我はディエルゴ。ここではない別の島の意志にして、狂える界の意志也!!」 剣の意志、否、その本質が真の名を告げる。 かつてリィンバウムにおいて無色の派閥という狂気の組織が、世界を支配する根源『界の意志<エルゴ>』から その座を奪うべく作り上げようとした新たなる界の意志、人造のエルゴ。 嘆きに歪み、怒りに朽ち、悲しみに崩れ、怨みに果てた、狂気の成れの果てである。 「それほどの存在が、なぜ今まで出てこなかったんだ!?」 「我が本体は島にこそ存在する。島より切り離されたこの場所では、 我が血肉はこの魔剣に内在する分量しか存在しなかった。 嘆きを汲み上げて維持しようにも、そのなけなしの血肉ですら、 あの災厄に寄生された身では存在を保つことすらできなかったのだ」 ジョウイの問いに、紅の暴君―――否、ディエルゴは忌々しそうに応じた。 忘れられた島の意志であるディエルゴは、忘れられた島でなければその力を発揮することはできない。 もっとも、元の島にはもうディエルゴも存在しないのだが。 いずれにせよ魔剣に在った分量しかないディエルゴでは、 自意識すら構築できずただの無念や怨念の集合体としてしか存在できなかったのだ。 それでも、この島には魔剣の欠片をベースにして構成される共界線があった。 故に、少しずつではあるがこの島の嘆きや怒りを汲み上げて糧としていた。 しかし、それすらも奪われ続けていたのだ。魔王オディオの奇策によって内在させられた焔の災厄・ロードブレイザーによって。 「あの災厄にとって我は最高の苗床であったのだろうな。 意識すら形にできぬ我は、本能的に憎悪を汲み上げることしかできぬ。 それを片端から自身の糧にされては、我に打つ手はなかった」 弱り切った焔に延々と薪をくべ続けるという屈辱が、オディオより与えられた役割だったのだ。 ロードブレイザーにとっても、紅の暴君の存在は有意義だったのだろう。 ある程度の力を蓄えてアシュレー=ウィンチェスターに再憑依した時にさえ、 紅の暴君の味を知ったロードブレイザーは無意識にも僅かに残滓を残していたのだから。 「屈辱ではあった。何とか奴の依代を砕かんと、使いようもない適格者を差し向けてみたが、結果はあの様よ」 ディエルゴが遠くを睨むように過去を思い返すが、ジョウイには何のことかも理解できなかった。 もう一人の適格者アティ、ひいては彼女が持つ碧の賢帝がどのような状態にあるかは、共界線を通じてディエルゴは即座に理解していた。 同時に、ディエルゴはアティを用いて復活することなど不可能であると見切りをつけていたのだ。 碧の賢帝には焔の災厄がないとはいえ、あのような白無垢の状態では使い物にならない。 実際問題として、アティは魔剣を育むことも出来ずに死んでしまったのだ。 ディエルゴはせめてもと、なけなしの力で不完全な死亡覚醒で亡霊伐剣者をでっち上げてロードブレイザーにけしかけたが、 所詮は付け焼き刃の傀儡としての働きしかできず、挙句碧の賢帝を砕かれその核を食われる始末だ。 「残された手は一つ、適格者を得て魔剣を更新するよりなかった。それさえも、災厄の隙を突いて一度だけだったが」 「そうか、だからその時だけイスラに声が届いたのか」 碧の賢帝ではディエルゴが復活できない以上、頼みの綱は紅の暴君しかなかった。 しかし、ロードブレイザーが曲がりなりにも残っているままではディエルゴは動けない。 だからこそ、アシュレーの、そして紅の暴君の中のロードブレイザーがルカの憎悪に興味を示し、 余所見をした隙にディエルゴは適格者へのアクセスを試みたのだ。 適格者イスラの手で再契約を結べば、その力でロードブレイザーを剣の中から完全に駆逐することができただろうと。 その結果もご覧の通りであり、ディエルゴの目論見は絶たれていたが。 「だが、それもこれまでよ。忌々しき厄災の根は完全に絶たれた! この芳醇な力を得たことで、我も我を形作ることができた!」 「なら……」 ジョウイは僅かに緊張を緩ませ、胸を開く。 オディオの力と魔剣の力、彼が欲した2つの力が今手に入らんとしている今、無理はなかった。 「後は、適格者を乗っ取り、核を修復すれば全てが整う! 貴様は、その運び屋<ベクター>となるが良いッ」 だが、ディエルゴから吐き捨てられた言葉は無慈悲なものだった。 最後の一歩まで上りかけた梯子を下ろされたような表情のジョウイに、ディエルゴは嘲るように言う。 「貴様如きが我が力を背負うだと? 下らぬ!! 適格者でもない貴様が、ましてや戦争を欲する愚かしい貴様が我を手にするなど」 自らに集う痛みを堪えるように、ディエルゴは怨み憎んだ。 「貴様の腹の内は既に読み込んでいる。戦乱? 力だと? それによって一体なにが生じるのか分かっているのか?」 「それは分かっています! だけど、平和を手にするには痛みは避けられない。僕はそれを最小限にしたいんだ!!」 ディエルゴの決別の意志を前にして、ジョウイは慌てて抗弁する。 意志を持つとはいえ、魔剣をただの力だと思っていたジョウイは魔剣に拒絶されるということは考えてなかったのだ。 暴虐を欲するのならば理想の過程に賛同してくれるだろうと思ったのだ。 「ふざくるなァッ! 最小限の痛みだと? その痛みがどれほどのものかも識らぬ人間が語るとは愚かの極み。なにも、なにも識らぬ者が!!」 だが、返された答えはその真逆だった。 ディエルゴはありったけの軽蔑を向けて昔日の悔恨を思い出すように、瑞々しくジョウイを罵った。 「いいだろう。表層の読み込みは完了した……これより貴様の世界への『読み込み』を開始する」 宣誓と共に、ディエルゴから共界線が伸びてジョウイの右手の黒き刃の紋章へと接続される。 「識るがよい、世界の痛みの片鱗を。 戯言の続きはその後だ……真実の痛みを識ってなお吐けるものならなぁァァァァァァッ!!!!!」 何を、と言う前にジョウイの世界は暗転した。 時系列順で読む BACK△142-2 為すべきを成すべき時 -Friend s Fist with Brave-(後編)NEXT▼142-4 その罪を識る時 -Fallere825-(後編) 投下順で読む BACK△142-2 為すべきを成すべき時 -Friend s Fist with Brave-(後編)NEXT▼142-4 その罪を識る時 -Fallere825-(後編) 142-2 為すべきを成すべき時 -Friend s Fist with Brave-(後編) アナスタシア 142-4 その罪を識る時 -Fallere825-(後編) ちょこ ゴゴ カエル セッツァー ピサロ ストレイボウ アキラ イスラ ジョウイ ▲
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/118.html
【作品名】 名前 登場話 【LIVE A LIVE】 高原日勝 ]],[[ ,]],[[ , , アキラ(田所晃 ]],[[ ,]],[[ , , 無法松 ]],[[ ,]],[[ , , サンダウン ]],[[ ,]],[[ , , レイ・クウゴ ]],[[ ,]],[[ , , ストレイボウ 002,]],[[ ,]],[[ , オディ・オブライト ]],[[ ,]],[[ , , 魔王オディオ(オルステッド) 000,]],[[ ,]],[[ , 【ファイナルファンタジーVI】 ティナ・ブランフォード ]],[[ ,]],[[ , , エドガー・ロニ・フィガロ ]],[[ ,]],[[ , , マッシュ・レネ・フィガロ ]],[[ ,]],[[ , , シャドウ ]],[[ ,]],[[ , , セッツァー・ギャッビアーニ ]],[[ ,]],[[ , , ゴゴ ]],[[ ,]],[[ , , ケフカ・パラッツォ ]],[[ ,]],[[ , , 【ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】 ユーリル(勇者) ]],[[ ,]],[[ , , アリーナ 000,]],[[ ,]],[[ , ミネア ]],[[ ,]],[[ , , トルネコ ]],[[ ,]],[[ , , ピサロ ]],[[ ,]],[[ , , ロザリー ]],[[ ,]],[[ , , シンシア ]],[[ ,]],[[ , , 【WILD ARMS 2nd IGNITION】 アシュレー・ウィンチェスター ]],[[ ,]],[[ , , リルカ・エレニアック ]],[[ ,]],[[ , , ブラッド・エヴァンス ]],[[ ,]],[[ , , カノン ]],[[ ,]],[[ , , マリアベル・アーミティッジ ]],[[ ,]],[[ , , アナスタシア・ルン・ヴァレリア ]],[[ ,]],[[ , , トカ ]],[[ ,]],[[ , , 【幻想水滸伝II】 リオウ(2主人公) ]],[[ ,]],[[ , , ジョウイ・アトレイド ]],[[ ,]],[[ , , ビクトール ]],[[ ,]],[[ , , ビッキー ]],[[ ,]],[[ , , ナナミ 001,]],[[ ,]],[[ , ルカ・ブライト ]],[[ ,]],[[ , , 【ファイアーエムブレム 烈火の剣】 リン(リンディス) ]],[[ ,]],[[ , , ヘクトル ]],[[ ,]],[[ , , フロリーナ ]],[[ ,]],[[ , , ジャファル ]],[[ ,]],[[ , , ニノ ]],[[ ,]],[[ , , 【アークザラッドⅡ】 エルク ]],[[ ,]],[[ , , リーザ ]],[[ ,]],[[ , , シュウ ]],[[ ,]],[[ , , トッシュ 001,]],[[ ,]],[[ , ちょこ ]],[[ ,]],[[ , , 【クロノ・トリガー】 クロノ ]],[[ ,]],[[ , , ルッカ ]],[[ ,]],[[ , , カエル 002,]],[[ ,]],[[ , エイラ ]],[[ ,]],[[ , , 魔王 ]],[[ ,]],[[ , , 【サモンナイト3】 アティ(女主人公) ]],[[ ,]],[[ , , アリーゼ ]],[[ ,]],[[ , , アズリア・レヴィノス ]],[[ ,]],[[ , , ビジュ ]],[[ ,]],[[ , , イスラ・レヴィノス ]],[[ ,]],[[ , ,
https://w.atwiki.jp/rpgzikkyousure/pages/144.html
RPGタイトル ラスボスを倒してクリアしたタイトルのみ扱ってます 常に開放してるので、誰でも更新可能です なお「WA」などの略称を使わずに「ワイルドアームズ」でお願いします 追加したら五十音リンク先も追加お願いします。 クリア日付は大体でかまわないので あ~ アークザラッド アークザラッドⅡ アークザラッド機神復活 麻原の野望 オウムの系譜 アメリカンドリーム アランドラ アルトネリコ アンオフィシャル ファイナルファンタジー III イースI・II(PCE) うさぎなダンジョン うしおととら ヴァルキリープロファイル(PS) ヴァルキリープロファイル2 シルメリア Wizardry1(SFC) Wizardry6(SFC) SDガンダム外伝 ナイトガンダム物語 SDガンダム外伝 ナイトガンダム物語 大いなる遺産 SDガンダム外伝2 円卓の騎士 エストポリス伝記 エストポリス伝記2 エメラルドドラゴン(SFC) エルナード オリエンタルブルー -青の天外- か~ カードマスター リムサリアの封印 ガイア幻想紀 カオスシード 鬼神降臨伝ONI グランディア グローランサー 黒の剣 クロノトリガー クロノクロス 幻想水滸伝2 ごきんじょ冒険隊 さ~ サイバーナイト2 SaGa2秘宝伝説 Xak(サーク) サガフロンティア サガフロンティア2 サモンナイト2 サモンナイト3 シャイニングフォース シャドウハーツ 邪聖剣ネクロマンサー シルエットノート シルフェイド幻想譚 シルフェイド見聞録 真・女神転生 真・女神転生II 真・女神転生if... 真・女神転生III-NOCTURNE- 真・女神転生III-NOCTURNEマニアクス- 新桃太郎伝説 スターオーシャン スターオーシャン The 2nd story STARGAZER スーパーマリオRPG 聖剣伝説2 聖剣伝説3 聖剣伝説Legend of Mana ゼノギアス ゼノサーガ エピソードI [力への意志] ゼノサーガ エピソードII [善悪の彼岸] ゼノサーガ エピソードIII [ツァラトゥストラはかく語りき] セラフィックブルー ゼルダの伝説 神々のトライフォース ゼルダの伝説 時のオカリナ ソードワールドSFC2 双界儀 ソウルブレイダー ソウルクレイドル 世界を喰らう者 た~ 大貝獣物語 大貝獣物語2 タクティクスオウガ チョコボの不思議なダンジョン2 デア・ラングリッサー ティアリング・サーガ テイルズオブジアビス テイルズオブデスティニー(PS2) テイルズオブデスティニー2 テイルズオブエターニア テイルズオブリバース デュープリズム 天外魔境2 天外魔境ZERO 伝説のオウガバトル 天地創造 .hack//G.U. Vol.1 再誕 ドラゴンクエストモンスターズ ~テリーのワンダーランド~ ドラゴンクエスト(FC版) ドラゴンクエスト(SFC版) ドラゴンクエスト2(FC版) ドラゴンクエスト2(SFC版) ドラゴンクエスト3(FC版) ドラゴンクエスト3(GB版) ドラゴンクエスト3 ExtraⅡ ドラゴンクエスト4(FC版) ドラゴンクエスト4(PS版) ドラゴンクエスト5 ドラゴンクエスト5(PS2版) ドラゴンクエスト6 ドラゴンクエスト7 ドラゴンクエスト8 ドラゴンクエストソード ドラゴンナイト4(PS版) ドラッケン ドラゴンシャドウスペル ドラゴンファンタジー2 トレジャーハンターG な~ KnightNight ナムコクロスカプコン ネフェシエル は~ バハムートラグーン パポタ-空飛ぶ魔導屋- パラサイト・イヴ ヒーロー戦記プロジェクトオリュンポス 美少女戦士セーラームーン~Another Story~ ファイアーエムブレム ~オードの系譜~ ファイアーエムブレム紋章の謎 ファイアーエムブレム紋章HARDの謎 ファイアーエムブレム聖戦の系譜 ファイアーエムブレム聖戦の系譜クレイジー ファイアーエムブレムトラキア776 ファイアーエムブレム封印の剣 ファイアーエムブレム封印の剣 M ファイアーエムブレム烈火の剣 ファイアーエムブレム聖魔の光石 ファイアーエムブレム蒼炎の軌跡 ファイアーエムブレム暁の女神 ファイナルファンタジー外伝 聖剣伝説 ファイナルファンタジー1(PS版) ファイナルファンタジー1(PSP版) ファイナルファンタジー2 ファイナルファンタジー3 ファイナルファンタジー4 ファイナルファンタジー4(GBA版) ファイナルファンタジー5 ファイナルファンタジー6 ファイナルファンタジー7 ファイナルファンタジー9 ファイナルファンタジー10 ファイナルファンタジー12 FINAL FANTASY 99 ファイナルファンタジーUSA ファイナルファンタジー・タクティクス ファイナルファンタジータクティクスアドバンス 風来のシレン 風来のシレン外伝 女剣士アスカ見参 BUSHIN0 ブレスオブファイア1 ブレスオブファイア1(GBA版) ブレスオブファイア2 フロントミッション フロントミッションサード BraveGear(ブレイブギア) 分裂ガール ヘラクレスの栄光 ヘラクレスの栄光 ペルソナ2罪 ペルソナ2罰 ペルソナ3 ペルソナ3FES ペルソナ4 弁慶外伝 沙の章 ポケットモンスターファイアレッド ポケットモンスターパール ポポロクロイス物語 ポポロクロイス物語II ま~ 魔界塔士SAGA(GB) 魔界塔士SAGA(WSC) 摩訶摩訶 マザー マザー2 マザー3 魔道物語(SFC) 魔法陣グルグル 魔法陣グルグル2 マリーのアトリエplus マリオストーリー ミスティックアーク 武蔵伝 moon メタルマックス2 メタルマックスリターンズ 魍魎戦記MADARA2 モンスターメーカー7つの秘宝 や~ ユグドラ・ユニオン ら~ ラブクエスト ライブ・ア・ライブ ルーンファクトリー -新牧場物語- ルドラの秘宝 LUNAR SILVER STAR STORY 冷界大戦争 レジェンドオブドラグーン レブス ローグギャラクシー ロックマンDASH(64) ロマンシング・サガ ロマンシング・サガ2 ロマンシング・サガ3 ロマンシング・サガ3四天王パッチ ロマンシング サガ -ミンストレルソング- わ~ ワイルドアームズ ワイルドアームズ セカンドイグニッション ワイルドアームズ ザ フィフスヴァンガード
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/264.html
【名前】カノン 【出展】WILD ARMS 2nd IGNITION 【種族】人間 【性別】女 【年齢】不詳 【外見】黒く長い髪、左目に眼帯。紅い服に朱いマント。 【性格】やや狭量。容赦がない。 【呼称】一人称:「あたし」、二人称:「お前」、または呼び捨て 【口調】基本は無口。ぶっきらぼう 【セリフの一例】 「カノン……。通り名だが、抱いて逝くにはそれで充分だろう?」 【特異能力】 ほぼ全身をノーブルレッドのロストテクノロジーによる機械化された義体(シルエットアーム)に置き換え、それによる凄まじいまでの身体能力と短剣を用いて戦う。素早い攻撃が得意。脳と左眼だけが生身である。 [フォースアビリティ] ガトリングLV1:対応シルエットアーム(レフトアームエッジ、パイクスラスター、メテオドライブ) ガトリングLV2:対応シルエットアーム(ワイヤーナックル、スパイラルエッジ) ガトリングLV3:対応シルエットアーム(ドリルプレッシャー、ファランクス) ガトリングLV4:対応シルエットアーム(ビートイングラム) 対応するシルエットアームを強化し、高度な連続技として発動する [シルエットアーム] レフトアームエッジ:内蔵式ブレードによる斬撃 パイクスラスター:槍に見立てたハイアングルキック メテオドライブ:内蔵式ブレードによる真っ向両断 ワイヤーナックル:拳のギミックを飛ばして攻撃 スパイラルエッジ:エネルギーの弧を描く二段蹴り ドリルプレッシャー:キセノンの渦を手刀に纏って攻撃 ファランクス:衝撃波を集中して叩きつける ビートイングラム:義体のリミッターをはずして暴走する 【備考】 魔を祓う事を生業とする渡り鳥。傍系だが剣の聖女の血筋であり、それを誇りにし、周囲に認めさせようとしている。オデッサに雇われ、また自らの宿命、血筋の故にアシュレーの中にある魔を祓おうとする。敵として登場するが、後に仲間になる。 好きな小説は武侠小説。 本編終了後は渡り鳥としての活動を続ける。 剣の聖女の血を引く、ベルナデット家の末裔。本名はアイシャ・ベルナデット。英雄の末裔として、英雄であろうとする。 + 開示する 【現在状況】 登場話 014 HUNTER×HUNTER 死亡話 067-1 トゥルー・ホープ(前編)067-2 トゥルー・ホープ(後編) 登場話数 5話 参戦時期 エミュレーターゾーンでの戦闘直後 スタンス 危険対主催 現在状況 死亡 【本ロワにおける動向】 014 B-9平野にて、エルクと会う。魔を祓う事を告げ、方針が合わなかったため彼を攻撃し、重傷を負わせ川に落とす。 033 皆殺しの剣で暴走状態のリンの襲撃を受けるが、これをあしらい、気絶させる。リンを何とかするためC-8神殿へ向かう。 036 神殿にいたミネア、アリーゼと情報、支給品を交換し、魔王やピサロという祓うべき魔の存在を知る。神殿の外の火事を見、その原因を探るため飛び出す。 046 燃える森の中でルカ・ブライトとアキラを発見。乱入するが義体の不具合もあってルカに止められ、反撃で気絶する。アキラのテレポートで神殿へと運ばれる。 067 神殿を訪れたルカと再戦。アキラの補助を受け、ダメージは与えたものの凌ぎきられ四肢を砕かれる。止めを刺される寸前で、アキラのマザーイメージによりルカが撤退。その後、アキラに看取られ、彼にとっての英雄となったことを知り、満たされて逝く。死体はC-8湖に水葬される。後の乱戦時にピサロやユーリルの雷により湖が干上がった際、一時的に陸上に出、目撃したアナスタシアに影響を与える。 【最終状態表】 【C-8 神殿(集いの泉@サモンナイト3) 一日目 早朝】 【カノン@WILD ARMS 2nd IGNITION】 [状態]:精神的疲労(中)、ダメージ(中)、気絶、『義体』に異常 、服が濡れている [装備]:勇者ドリル@サモンナイト3(左腕)、Pファイアバグ@アークザラッドⅡ、 激怒の腕輪@クロノ・トリガー、毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち [道具]:不明支給品1~2個(確認済み)、基本支給品一式×2 [思考] 基本:『魔』を滅ぼす。邪魔されない限りそれ以外と戦う気はない。ただし、邪魔者は排除する。 1:アシュレーを見つけて討つ。 2:アシュレー以外の『魔』も討つ。(現時点:オディオ、魔王、皆殺しの剣、ピサロ) 3:後に少女(リンディス)の問題解決の為にも花園へ向かい1、2の為に情報を集める。 4:森に火を放った男(ルカ)を倒す。 5:あの男(エルク)には会いたくない。 [備考]: ※参戦時期はエミュレーターゾーンでアシュレーと戦った直後です。 ※彼女の言う『魔』とは、モンスター、魔物、悪魔、魔神の類の人外のことです。 ※勇者ドリル、Pファイアバグは機械系の参加者及び支給品には誰(どれ)でも装備できるよう改造されています。 ※エルクのデイパックを湖に捨てました。基本支給品はちゃっかりぱくっています。 ※ミネア、アリーゼの知り合いや、世界についての情報を得ました。 ただし、アティや剣に関することは当たり障りのないものにされています。 ▲
https://w.atwiki.jp/progrews/pages/101.html
ファンタジスタ 活躍の期待できるフォメ&ポジ ※ひじょーーーーに日本が大好きな選手がモデル。 残念ながらこのゲームにはその辺は反映されず・・・ T系FWではあるがあまり活躍の声は聞けない。一言で言ってしまえばダメSS。 モデル:アレッサンドロ・デル・ピエロ 国籍:イタリア ナショナルチーム:# 7→10 (08/01/04更新) SS・SP選手一覧に戻る
https://w.atwiki.jp/16seiten/pages/1382.html
真十大聖天の一角にして、DOOMS社により劣化複製されたソロ・アナスタシアのクローン体 通称「悪魔召喚師」、ソロ・クローン実験体000番 金銀妖眼に一筋だけ白髪交じりの黒髪、黒白の軍服を身に纏う少年である 傲岸不遜かつ豪放磊落だが、理知的で道義を重んじる一面も持ち合わせた王様キャラ 心臓に地獄の門を宿し、魔銃『ディエス・イレ』を鍵に108柱もの魔神を使役する 弱点は劣化複製ゆえの体質虚弱とそれに伴う薬物依存で、出来損ないの身体は魔神召喚の度に心不全を引き起こす 口癖は「地獄を見せてやろう」
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/319.html
救われぬ者(後編) ◆iDqvc5TpTI 時は戻らない。 過去は変えられない。 たとえクロノが教えてくれたタイムマシーンを使おうとも。 救えるのは過去のユーリルだけだ。 過去のユーリルに“救われる方法”を教えたところで、今ここにいるユーリルの記憶と人生が変わるわけじゃない。 “勇者を成し遂げ切ってしまった”ユーリルは救われない。 救われないのだ。 仮に、だ。 さっきの想像を否定して、心中を吐露したユーリルに対し、人々が悔いたとしよう。 イスラが言うように、ユーリルが理解されることを拒んでいただけで、根は善人で、話せば分かってくれたとしよう。 “これから”は“勇者”にだけ頼らずに、共に立ち上がると約束してくれたとしよう。 もう休んでもいいのだと、後は任せろと、“勇者”の代わりに戦ってくれるようになったとしよう。 それで? だから? “生贄”の少年は、遂に人々との和解を果たし、泣いて謝るみんなを、笑って許しましたとさ。 そんなユーリル以外に心地良くて、ユーリル意外に都合のいいエンディングになるとでも? 昨日の今日まで奴隷として働かされていた人間が、解放された途端に、元の主人と友好関係を築けるとでも? 無理だ、ありえない。 人は、“救い”を求めている人間しか、“救う”ことが出来ない。 “救い”を求めている時に、“救われない”限り、何時まで経っても人は、救われない。 “救って”欲しかったのは“救いを求めていた”ユーリルだ。 今更人々が悔いたところで、ユーリルの心に一度傷が刻まれた事実は消えはしない。 傷そのものを埋められたとしても、ユーリルは覚えている。 その痛みをずっと、覚えている。 ずっと、ずっと、覚えている。 ユーリルは“救われない”。 だったらいっそ、オディオのように“魔王”になればいいのか。 人間憎しと、これまで救ってきた人間を憎悪のままに、全てこの手で殺せばいいのか。 奪われ続けたかつての自分の復讐に、みんなからもありとあらゆるものを奪えばいいのか。 幸せを奪った人間たちを。 “勇者”を奪ったアナスタシアを。 悪いのはユーリル自身だったと気づかせてしまったイスラやアキラを。 クロノを奪うはずだった異世界の人間たちを。 殺し尽くせばいいいというのか。 同じことだ。 やはり、ユーリルは“救われない”。 だってそうだろ? それっぽっちで救われるなら、僕はこんな目にあってない。 僕が“勇者”の真実を知らされ、人間の身勝手さに気付かされ、自分の愚かさを自覚してしまったのは。 アナスタシアのせいでも、イスラのせいでも、アキラのせいでもある前に。 あいつらと僕が出会う機会を作った、オディオのせいじゃないか。 そしてオディオが、そんなことをしたのは、僕達に殺し合いをさせたのは。 敗者を省みさせ、人間の愚かさを知らしめようと思ったのは。 オディオが、“救われなかった”からじゃないか。 憎きルクレチアの人々を、全て殺し尽くしても、オディオが充たされなかったからじゃないか。 “救われない”のだ。 憎き相手を全て殺したところで、オディオも、ユーリルも、“救われない”のだ。 嫌だ、そんなのは、許せない! 許せない、許せない、許せない、許せない! 気がつけば、ユーリルの心のなかは、許せないという想いでいっぱいだった。 旅立ちの日に抱いた想いでいっぱいだった。 “救われない”のはもう嫌だ。 “救えない”のは御免だ。 絶対に駄目なのだ。 “救い”を求める者が、“救われて”と願われるものが、“救われない”なんてことがあってはならない。 “救われない”のは許せない! そうだ だから だから僕は――“勇者”であることに拘った。“勇者”でなければならなかった。 全てを“救える”“勇者”であり続ける為に、ありとあらゆる努力を惜しまなかった。 “勇者”とは、“勇者”たるもの、“勇者”であるからにはと、 完璧な“勇者”たることを求めた。 ユーリルには“勇者”が必要だった。 “勇者”になんてなりたくなかったけれど、全ては全てを“救う”為に必要だった。 “勇者”でない、ただのユーリルでは無理なのだ。 故郷の人々を、好きだった幼なじみの一人さえ、“救えない”ただのユーリルでは無理なのだ。 ユーリルは、“勇者”であり続けなければならなかった。 “勇者”でありさえすれば、全てを“救える”とそう信じてた。 なのに。 あいつが現れた。 “剣の聖女”アナスタシア・ルン・ヴァレリア。 あいつは、ユーリルに、人間が“救いようのない”程身勝手な存在だと突きつけてきた。 “勇者”が人を“救える”特別な存在じゃなくて、“救われない”“生贄”であると嘯いた。 それは、ユーリルにとって、致命的に真実だった。 全てを“救い”たくて“勇者”になったのに、その“勇者”である限り、ユーリルは“救われない”という自己矛盾。 その矛盾に追い打ちをかけていくように、“勇者”の特別制が次々と否定されていく中、ユーリルは“勇者”を疑ってしまった。 僕が“勇者”でなくても世界は“救われる”。 僕が“勇者”でなくてもみんなは“救われる”。 僕は僕自身を“救う”ために“勇者”なんか止めてやる! そう思って、“勇者”を辞めてしまった。 知っていたはずなのに。 “勇者”でない、ただのユーリルでは誰かを“救う”なんて無理だと知っていたはずなのに。 案の定、“勇者”を辞めたユーリルは彼の心を“救ってくれた”かもしれない友達を、“救えなかった”。 “救えなかった”んだ! ▼ 問おう、汝は何者か ――“英雄”でもなんでもない、ただの幸せになりたかっただけの女の子よ 目は、少し前から覚めていた。 意識のないふりを続けていたのは、甘えに他ならない。 問い詰められるのが怖かった。 罪を突きつけられるのが怖かった。 だから少しでも、問題を先送りしようとした。 幸いその時、マリアベル達は首輪の解析に夢中で、ヘクトル達も各々が思考の海に沈んでいた。 誰もアナスタシアが意識を取り戻したことに気づいていなかった。 ……いや、違うかもしれない。 もしかしたら、アナスタシアをよく知るマリアベルには見抜かれていたかもしれない。 事実、起き上がって問答に割り込んだ瞬間、マリアベルだけが驚きもせず、じっとアナスタシアを見つめていた。 それでもよかった。 目溢しを貰っているだけに過ぎないにしても、今少しの猶予を得られるのなら。 そう思っていたのに。 一度転がりだした石は止まらない。 保身故でも、打算故でも、アナスタシアが一石を投じたのは事実。 蹴り飛ばした石が、砂粒に過ぎなかったとしても。 砂粒は風に乗り、空を流れる。 「……それで。それでその人が救われたとして。オディオは“救われる”の?」 アナスタシアは自ら安寧を手放し、口を開く。 “勇者”を救いなき地獄に叩き落した口で、魔に堕ちた“勇者”の幸せを説く。 自分でも調子のいい話だと思った矢先、非難の声が飛んできた。 「起き抜け早々に随分なことを言うんだね、おねえさん」 「全くだぜ」 誰よりもアナスタシアの言葉の力を知っているイスラが、これ以上はしゃべらせまいと割り込んできたのだ。 イスラだけではない。 アキラまでもが、敵意の篭った視線をアナスタシアに向けていた。 だがその視線は小さな影に遮られた。 マリアベルだ。 「すまぬの。今はストレイボウの番じゃ。 おぬしらからすれば、思うところはあるやも知れぬが、ストレイボウからすればアナスタシアも謝罪の対象に他ならぬ。 アナスタシアが許せないと返したところで、その怒りを受け止めるのも、ストレイボウに課せられた罰じゃ。 わらわ達が遮ってよいものではない。 故に、こやつの話の間だけは、待ってはくれぬか?」 親友が救いの手を差し伸べてくれたのだとは、アナスタシアには思えなかった。 言葉通り、ストレイボウの為を思って、待ったをかけたのだろう。 これでも親友だ。 マリアベルの公平さは誰よりも知っている。 心配そうに気遣う緑の髪の少女に大丈夫じゃと笑い返してはいるも、その手が僅かに震えていることにも気付いてる。 きっと、誰よりも、マリアベルがストレイボウを押しのけてでも、アナスタシアと話をしたいのだ。 「……そうだね。今は、譲るよ」 「しゃあねえな」 「すまぬな。いや、ありがとう」 そのことを察し、イスラもアキラも身を退く。 マリアベル同様、ヘクトルも事の顛末を見守らんとしており、動く気配はない。 アナスタシアとストレイボウの間を遮る人物は、もう誰もいない。 「君は……」 「わたしの名前はマリアベル辺りから聞いて、もう知っているわよね。アナスタシア・ルン・ヴァレリア。 あなたにだけは、よろしくとは言いたくないわ、悪の魔法使いさん」 まるで自分を見ているようだから。 心の中で吐き捨てて、アナスタシアはストレイボウと向きあう。 幸せになろうとした人。 友を裏切り、人を殺めて、一人だけ幸せになろうとした人。 「さっき、あなたはアキラくんに言っていたわよね。オルステッドに会って謝りたいんだと」 それのどこが違うというのか。 生きたいからと人を利用し、親友の信頼も裏切り、一人だけ生き残ろうとしたアナスタシアと。 変わらない。 あの雨の中の戦いで、悟った通りだ。 “生贄”を差し出して自己保身に回る群衆とアナスタシアは、何一つ変わらない。 それどころか、群衆を先導して、“勇者”を“生贄”にした男とすら、一緒だった。 “勇者”を壊した今頃になって、罪の意識に苛まれているあたり、この身勝手な男との方が、より性質は近しいのかもしれない。 それなのに。 「そうだ、俺は謝りたいんだ。オルステッドに」 男は先に行くという。 未だ一歩足を踏み出したばかりで、“生きる”ことが何なのか見失ってしまったアナスタシアを置き去りにして。 ストレイボウは贖罪の道に“生きる”という。 「それで?」 アナスタシアがストレイボウを許せないのは、オディオに自分を重ねているからだけではない。 「謝ったところでどうなるの? あなたは気が楽になるかもしれないわ。 ずっと背負ってきた罪の意識から解放されるのだから」 ストレイボウに嫉妬しているからだ。 “生贄”を捧げて、生かしてもらう側だった癖に、と。 同じ死人だったくせに、と。 「でも、オルステッドは、オディオは救われないわ。今更、あなたに謝られたところで、彼の失ったものは戻って来ない。 遅すぎたのよ。どれだけ悔いたところで、一度捧げてしまった“生贄”は帰って来ない」 ストレイボウの表情が歪んでいくのが目に映る。 オルステッドに謝りたい、友を救いたいと言いながらも、彼にはその方法が分からないのだろう。 簡単な話なのに。 いいえ、簡単な話“だった”のに。 「ねえ、分かる? オルステッドを“生贄”に仕立て上げたあなたが、オルステッドを“救えた”最後のチャンスがいつだったか。それはね」 さあ突こう。 “生贄”にされた“英雄”の辛さが分かる身として、身勝手な人間の一番痛いところを。 「「あなたが/お前が死んだ、その日、生きていることを明かした時に」」 そして、“生贄”にされた“英雄”として気持ちを語ったならば。 「“救われる”べきだったのよ」「どうして“救われて”やらなかったんだっ!」 その答えが“生贄”にされた“勇者”のそれと重なるのは。 「「オルステッドにッ!」」 何もおかしいことはなかった。 ▽ 顔を強ばらせているアナスタシアと違い、別にユーリルは意識を取り戻していたわけじゃなかった。 目を覚ましたのは今の今なのだ。 けれど、話を聞いていなかったのかと言われれば、そうじゃない。 ユーリルにもストレイボウの懺悔の言葉は届いていた。 感応石だ。 感応石が意識を失ったユーリルへと、現世の光景を届けていたのだ。 果たして、オディオによる夢への干渉の残滓によるものか。 はたまた、アキラのテレパシーによる感応石への働きかけが、偶然ユーリルの石にだけ強く影響を及ぼしたのか。 それもまた、分からない。 分からないことだらけだが、それでもユーリルにだって分かることがある。 怒りだ、今、この身は怒りを抱いている。 「どうしてお前は救われてやらなかったんだよ!?」 “救いたい”人達がいた。 “救えなかった”人達がいた。 “救われた”自分がいた。 救い手たる自分になった。 ユーリルは“勇者”としての一生を、誰かを“救う”ことだけに費やしてきた。 救い手たれと望まれて、本当に救いたかった人達の命を犠牲に救えなかった彼は、せめてとばかり名も知らない人々を“救い”続けた。 無論、どれだけ“救おうとも”、所詮は代替行為。 飢えは満たされるはずがなく、ユーリルは更に多くの人々を“救う”ことを求めた。 “救う”ことを求めて、求めて、求め続けて。 遂には、世界を“救った”。 “魔王”さえも“救った”。 そう、“魔王”さえも、だ。 ユーリルは“勇者”だった。 予言に唄われた“勇者”だった。 地獄の帝王を滅ぼすはずの“勇者”だった。 それなのに、ユーリルはピサロを“救った”。 第二の地獄の帝王たる“魔王”を“救った”。 “勇者”だから? “勇者”は清廉潔白でなければならないから? “勇者”は優しくなければならないから? だから、エビルプリーストに騙されただけだった“魔王”に同情した、と? 違う。 “勇者”だから、ではない。 “勇者”なのに、だ。 まず何よりも、第一に、“勇者”は“魔王”を滅ぼすべき存在として定義されていたのに。 誰よりも、“勇者”であろうとしたはずのユーリルが、その大前提を裏切った。 エスタークを復活を邪魔するに留め、デスピサロを“救い”、滅ぼしたのは黒幕といえど単なる魔法使いのみ。 矛盾している。 余りにも、矛盾している。 “勇者”なのに、“勇者”なのに、“勇者”なのに。 なんということはない。 ユーリルは“壊れていたのだ”。 自らの復讐心よりも、エルフの女性が求めてきた“救い”を優先してしまうほどに壊れていたのだ。 アキラが謳った“ヒーロー”のように、とっくの昔に“ブッ壊れて”いたのだ。 あの日、あの時、あの瞬間。 故郷を焼かれたあの時に。 “救い”を求める人びとに手を伸ばせなかったあの時に。 大好きな人達を“救えなかった”あの時に。 誰一人、“救われなかった”あの時に。 そのことに、自分を見つめ直した今の今まで気付かなかった。 自分が“救いようのないほど”壊れてしまっていることに、気付きたくなかった。 気付かないように目を逸らしてた。 “勇者”であることを全ての言い訳にして。 “勇者”だから。 “勇者”だから。 “勇者”だから。 “勇者”だから、どれだけ怖くても、世界を“救わねばならない”。 “勇者”だから、自分の幸せを捨ててさえ、見知らぬ人間を“救わねばならない”。 “勇者”だから、恨みを抑えこんで、怨敵さえも“救わねばならない”。 ずっと、ずっと、ずっと、そう言い聞かせてきた。 いつの間にか、それが本当だと信じこんでた。 でも違った。 本当は、そうじゃなかった。 “勇者”だから、ではない。 “勇者”なのに、でもない。 “勇者”ならば、だ。 “勇者”ならば、どれだけ怖くても、世界を“救える”。 “勇者”ならば、自分の幸せを捨ててさえ、見知らぬ人間を“救える”。 “勇者”ならば、恨みを抑えこんで、怨敵さえも“救える”。 予言に唄われる“勇者”ならば。 神に選ばれ、魔族が恐れる程の力を持つ“勇者”ならば。 世界を救うと約束された“勇者”ならば。 文字通り、世界中の人であろうと、“救える”はずだと信じた。 みんなを“救える”と信じた。 みんなは、みんな、みんななんだ。 “救われない”ことが許せなくて、“救われない”者をただ“救いたい”だけだった。 今更になって自覚したそれが、僕の本当にやりたいことだったんだ。 “救われない”のはもう嫌だ。 “救えない”のは御免だ。 絶対に駄目なのだ。 “救い”を求める者が、“救われて”と願われるものが、“救われない”なんてことがあってはならない。 “救われない”のは許せない! だからこそ、ユーリルはストレイボウに怒りを抱く。 ユーリルが“救えなかった”モノを“救えた”のに、“救おうとしなかった”ストレイボウが許せない。 「俺が……“救われる”べき、だった? アリシア姫でなく、この俺が……?」 「そうだよ、そいつが“救われる”ことはそいつにしかできなかったけど、お前が“救われる”ことならお前にならできただろ!?」 激昂のままにストレイボウに詰め寄ろうとするユーリルを、ヘクトル達が抑えにかかる。 万一に備え武装解除をしてはいたが、ユーリルの暴走っぷりを知る者達からすれば、剣を取り上げたくらいで安心出来るはずがなかった。 アナスタシアの名を連呼していた時と同様、鬼気迫る表情で詰め寄っているのだから、尚更だ。 だけど、ヘクトル達の心配と、アナスタシアの怯えに反し、ユーリルは暴れはすれど、呪文ではなく言葉だけを紡ぎ続ける。 泣き出しそうな声だけを吐き出し続ける。 「なんだ、何が言いたいんだ!? あんたは何が言いたいんだ!?」 お前にならオルステッドを“救えた”。 そう言いたいんだよ! 「オルステッドは嬉しかったんだ! 魔王山でお前と再会した時、嬉しかったんだ! お前が生きていてくれて、嬉しかったんだ!」 「オルス、テッドが……? あいつを罠にはめて哂っていた俺の、ことを……? 俺が生きていたことに、不思議そうな顔をしていたあいつが?」 お前にはそう見えたかも知れないけれど! もしかしたら驚いて、思わず後ずさってしまったかもしれないけれど! それでも、それでも! 「当たり前だ! あんたは、オルステッドと親友だったんだろ!」 親友、なんだろ!? 友達よりももっと仲がいいんだろ! 僕はクロノを、日勝を、マッシュを救えなくて、あんなにも悲しかったんだ。 身が千切れそうな程に、憎悪に身をまかせるしかないほどに悲しかったんだ! 親友を“救えなかった”オルステッドは、もっと、もっと悲しかったんじゃないのか!? だったら、だったらさ。 「生きていてくれて、嬉しかったに、決まってるだろ!」 そうだ、決まってるんだ。 もし、もしもだ。 意味のない仮定で、既に裏切られた仮定だけれど。 ユーリルが殺し合いなんかに巻き込まれることなく、無知なまま、無事、滅んでしまった故郷へ戻れていたとして。 そこに、死んだはずのシンシアがいたとしたら。 笑顔で迎えてくれたとしたら。 きっと、きっとユーリルは。 疑うよりも早く、泣いて彼女を抱きしめていた。 「散々オルステッドに嘘をついたんだろ! だったらその時もついてやればよかったんだ! 本物の魔王に拐われていたとか、なんとか言って!」 「だが、それじゃ何の解決も……っ!」 「そんな嘘でも救われたんだよ、オルステッドはっ! 嘘でも何でもいい! お前を“救えた”ことに“救われた”んだよ! お前に、お前に分かるのか!? “救いたい”と、心の底から願った人達を“救えなかった”人間の想いが!」 僕には分かる、分かるんだ。 本当に助けたいと思った人達を、己が無力から誰一人救えなかった僕には。 そして、たとえ力があろうとも。 人は、“救い”を求めている人間しか、救うことが出来ない。 オルステッドはアリシアを“救えなかった”。 アリシアがオディオに救われることを拒絶したから。 ユーリルはシンシアを“救えなかった”。 シンシアがユーリルに救われることを求めなかったから。 そうか、ようやく分かった。 僕は、僕はシンシアに―― 皆を“救って”なんて言葉じゃなくて 私を助けてって言って欲しかったんだ…… 「ユーリルくん……。あなたは“救えなかった”のね……。 自分を“生贄”に捧げてさえ、本当に救いたかった人達を誰一人“救えなかった”……」 「うるさい、黙れ、アナスタシア」 余計なことじゃなくて、助けてって言って欲しかったのは、お前にもなんだ。 “救い”さえ求めてくれたら、“勇者”だったあの時の僕には“救えた”のに。 お前が“救われない”者である以上、助けてと言ってくれさえすれば、僕は絶対、何がなんでもお前のことも“救った”はずなんだ。 そうしたら、お前は“救われて”、僕も自分が“救われない”存在だなんて気付かないで済んだんだ。 クロノ達だって、“勇者”ユーリルなら、“救えた”かもしれない……。 だいたいお前はまだいいよ。“救えた”んだから。自分以外は“救えた”んだから。 「僕は、遅すぎた。遅すぎたんだ……」 大切な人達を護れるくらい、強くなるのが遅すぎた。 真に言って欲しかった言葉に気付くのが遅すぎた。 本当にやりたかったことを自覚するのが遅すぎた。 余りにも遅すぎた。 ユーリルが見出した、ストレイボウによるオルステッドの救済の方法にしろそうだ。 所詮は今更な“もし”とか“たら”とか“れば”の話に過ぎない。 ユーリルはただ駄々を捏ねただけだ。 親友を助けられるだけの力も言葉も持っていたのに、助けてやらなかったストレイボウに腹が立ち、楯突いていただけだ。 時は戻らない。 過去は変えられない。 ユーリルがいくら何を言おうと、何を願おうとも、“魔王”オディオは“救われない”。 それを証明せんとするかのように。 「え……?」 空間を揺らめかせ、突如ユーリルの前に現れたそいつは、異常を目にしヘクトルが、イスラが、武器を手に駆け寄るよりも早く。 今、この時の“魔王”の心を載せた槍にて、かつての“勇者”の“救い”を求めた、堕ちた“勇者”の心の臓を貫いた。 ▼ 時系列順で読む BACK△131-2 救われぬ者(中編)Next▼131-4 人間が大好きだった壊れた物真似師の唄 投下順で読む BACK△131-2 救われぬ者(中編)Next▼131-4 人間が大好きだった壊れた物真似師の唄